ドラマに何よりの説得力をもたらす、音楽の存在も大きい。今作の劇伴は、コメンテーターなどでマルチな活躍も見せる人気ピアニスト・清塚信也が担当。聴きなじみのあるクラシック音楽を取り入れながら独自にアレンジを施すという試みで、ドラマを盛り上げている。その劇伴が物語を華やかに彩ってくれるのはもちろんだが、神奈川フィルハーモニー管弦楽団が全面協力したという劇中の演奏シーンも大きな見どころ。第1話のハイライトである初音と朝陽の2人が「ポンコツだが音は悪くない」と思わせるあの説得力は、脚本だけでは描ききれなかったものだろう。

この音楽と物語が見事にリンクし、繊細かつ大胆なストーリー運びを見せているのが、清水友佳子氏の脚本だ。実際のところ、清塚信也の劇伴と、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の協力による音楽を流してしまえば、ある程度の盛り上がりは作れてしまうだろう。だが、物語も音楽に負けないほど屈強なもので、音楽の流れないシーンでも十分な吸引力があり、見どころがたっぷりと詰め込まれている。これは、清水氏が音楽科を卒業している点も関係しているのではないだろうか。

天才である主人公や、才能ある指揮者はもちろん、ポンコツな楽団員たちにも、音楽へのリスペクトがさりげなく描かれており、“音楽の楽しさ”を脚本で体現しているかのよう。そのセリフやト書きでは表せられない感覚のようなものは、やはり音楽の経験があるからこそだろう。交響楽団の再生をRPG的な物語にあてはめるのではなく、“音楽の物語”であることを真摯(しんし)に脚本へ落とし込んでいる。

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■『のだめカンタービレ』とは異なる味わい

このドラマを語る上で切っても切り離せない作品と言えば、大ヒットシリーズ『のだめカンタービレ』(フジテレビ)だろう。舞台がオーケストラで、ヒロインが天才、相手役が指揮者、バラバラのオケを再生するなど、共通点の多い作品だが、出来上がった作品は全く違うのが面白い。

連ドラの『のだめ』は音大のノンプロで、今作は交響楽団に属するプロという、立場の違いも大きいのだが、『のだめ』があふれる若い才能を爆発させた青春物語だとすれば、今作は老若男女の団員たちが集うことで、どこか哀愁が漂い、“決して遅くはない青春物語”のよう。同じテーマ、同じ青春を描いても、全く味わいが異なるという発見が得られる。

また、オーケストラという敷居の高いテーマをことさらゴージャスにすることもなく、嫌みなく身近に、哀愁の色合いも感じられる演出に仕立てている。これは作風もテーマも全く異なるが『家政婦のミタ』にも通じるところがあり、両作の演出を手がける猪股隆一監督だからこその味だろう。そんな親しみやすく見やすい演出ができるのは日本テレビだからこそ。『のだめ』が好きだという視聴者にも十分感じられる魅力と面白さで、作品としての力を持っている。

第1話のハイライトで訪れた、物語と演奏が見事に合致したシーンで、筆者はこの先の成功を確信した。第2話のラストで蒼が初音の家に下宿したことで起こる化学反応や、市長と対立する外側の勢力争いなど、ドラマの構造的な楽しみはもちろんあるのだが、“考えるより感じる”という、このドラマだからこそ実現できる音楽と物語の融合を楽しみに堪能したい。

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