女優の吉岡里帆が、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)のナレーション収録に臨んだ。担当したのは、15日・22日に2週にわたって放送される『酒と涙と女たちの歌2 ~塙山キャバレー物語~』。茨城県日立市の国道沿いに14軒の小さな飲み屋が並ぶ「塙山キャバレー」の人々を追った作品だ。

2021年5月30日・6月6日放送回の続編となる今作。前回もナレーションを担当した吉岡は「ママたちのカッコよさと懐の深さと温かさに感動して、とても印象的な回だったので、その後を追ってらっしゃったと聞いて楽しみにしていました」と収録に臨んだが、そこに描かれていたのは悲しい別れだった。ただ、つらい現実に向き合う姿を見て、改めて塙山キャバレーの人々に魅力を感じたという――。

『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当した吉岡里帆

『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当した吉岡里帆

■草むしりと店で1杯のビールを楽しむ日々を送るも…

今回のドキュメンタリーでも「濃密なエピソードがたくさんでした」と振り返る吉岡。しかしその中には、“のぼるちゃん”の死という悲しい出来事もあった。

のぼるちゃんは、かつて塙山キャバレーでラーメン店を営んでいた男性。しかし、火事を起こして隣4軒が延焼してしまい、その後は脳梗塞の後遺症もあって生活保護を受け、自宅アパート周辺の草むしりと店で1杯のビールを楽しむ日々を送っていたが、2022年3月、自宅で一人亡くなっているのを「めぐみ」のママが見つけた。

「前回ナレーションを読んだとき、のぼるちゃんがママたちに救われているという話が一番好きなエピソードだったので、亡くなられたと分かりショックでした。『いつもと同じ布団の上で朝死んでたっていうのが一番いい』と言っていたのぼるちゃんに、お友達がかけた『今日もいい1日にしちまえ』というのが本当に素敵な言葉で、前回は希望にあふれた形で終結していたので、悲しいです」

それでも、のぼるちゃんとの日々を思い返して語り合う塙山キャバレーの人々の姿を見て、「“孤独死”という亡くなり方でしたけど、常に周りに人がちゃんといたんですよね。塙山キャバレーの温かさを改めて感じました」と、その魅力を再確認した。

■“痛み”を正面から受け止めるママたち

この温かさが生まれる理由は、どんなことも受け止めてくれるママたちの姿勢だ。

「ナレーションに『塙山キャバレーに集う人々は、喜びも悲しみも痛みも、分け合ってきました』という言葉があります。この“痛み”の部分に対して、普通だったら目を背けたいくらいヘビーなこともいっぱいあるのに、ママたちは決して忘れたり流したりせず、正面からぶつかっていったり、受け止めてあげたりするんですよね。だから、すごくグッときてカッコいいなと思うんです」

その背景にあるのは、眠っている間に母親に置屋へ売り飛ばされて何とかこの地にたどり着いたママ、女手一つで育てた息子を亡くしても店に立ち続けるママ、夫の元に置いて別れたきりの娘と20年ぶりの再会を果たしたママなど、壮絶な経験を持つからこその説得力。

「だから、お客さんがみんな自分の悩みを聞いてほしくなるのかなと思います。ママたちが愛情いっぱいで“あなたは1人じゃない”いうことを届けてらっしゃって、しかもずっと笑いがあって。重い話も泣きながら、笑いながらお互いに話して聞き合っていて、本当に救われる場所だなと思いました」と、常連客が絶えず集まってくることに納得した。

  • 塙山キャバレーの夜景 (C)フジテレビ

“1人じゃない”は、ママ同士の関係性にも通じるキーワード。「お店がひしめき合っているのがいいですよね。『私がここで倒れても、他のママが見つけてくれるから1人じゃないんだよね』とお話しされているママもいましたが、お互いに助け合って生きている。今は、みんな個人で頑張らなきゃいけないと思い込んでしまう時代でもあるから、余計にあの“みんなでやりましょうよ”っていう空気感は、貴重だなと思いました」と捉える。

全国の飲食店が苦境に立たされるコロナ禍で、塙山キャバレーは1軒も閉店していないどころか、1軒増えているが、それは「絶対にママたちの人間力ですよね」と確信した。