早すぎる死となったが、訃報を聞いたときの元康の混乱ぶりからもわかるように、元康にとって義元がいかに大きな存在なのか、この1回でしっかりと伝わった。
「間違ったことを間違ったままにするのではなく正す」。義元の考えに萬斎は多いに共感したという。
「正しいことは何なのか、我が子にとっては不利であろうともそれを説くというのは共感できる。剣の試合で不正をするなと、相手にとってそれが最大の非礼であることを説くという厳しさも含めて、間違ったことがまかり通っていけば曲がった道になるということを言っているのだろうなと思いますし、人格者としての厳しさがすごくかっこよく書かれていると思いました」
溝端淳平演じる息子・氏真に厳しい態度をとる場面も。萬斎は「父子関係よりも師弟関係に重きがあるのかなと。そうでないと我が子にあそこまで厳しくできないと思います。それだけ自分が目指す道がはっきりしている。国を治める人間としてどうするのか。自分の嫡男である氏真に継がせたい、そしてそれを元康に支えてほしいという思いもあるようですが、残念ながら歴史的にはそうはならなかったようです」と語った。
義元が家康に金色の甲冑を授ける場面も描かれたが、あのシーンが萬斎にとって最初の撮影に。「最初のシーンでいきなり松重(豊)さんや皆さんがいて、余裕もなかったですが、面白いシーンになったかなと。みんなのリアクションがよかったと思います」と振り返る。
そして、「元康を取り囲む人たちが非常に魅力的だなと思いました」と述べ、「家臣の人たちはセリフがあってもなくてもずっと一緒にいる。撮影としては大変だと思いますが、その分、団結力をすごく感じましたし、松本くんをはじめ、みんなで仲良くやっている感じがして、期待が持てるなと感じました」と、家康を支える家臣団の魅力を語った。
さらに、今川義元の早すぎる退場に驚いた視聴者に向けて、「彼の死に様よりも、義元が理想として掲げていた王道と覇道の違いに焦点が当たっていましたが、家康に理念を説くという役回りが今回の今川義元。戦を描く以上に、平和な国家にどう推移していくかに重きがあるのかと思います。期待していただきたい」とメッセージ。「家康が幕府をつくっていくというプロセスにスポットを当てるときに、今川義元のおかげだったんだと印象に残ってもらえるといいなと思います」と期待した。
1966年4月5日生まれ、東京都出身。狂言師・野村万作の長男。祖父の故・六世野村万蔵及び父に師事。重要無形文化財総合指定者。東京芸術大学音楽学部卒業。国内外で狂言の普及を目指す一方、現代劇の出演・演出等にも意欲的に取り組む。芸術祭新人賞・優秀賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、朝日舞台芸術賞、紀伊国屋演劇賞、毎日芸術賞千田是也賞など受賞多数。2021年には観世寿夫記念法政大学能楽賞、松尾芸能賞大賞を受賞した。
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