主人公・家康役の松本については、「才能がある」という点で家康と重なり、義元として演じやすかったという。
「松本くんの演出家としての才能も含めて、尊敬できる方だと思います。義元自身も、自分の息子・氏真には強く当たりつつ、人質の元康のほうに才能を見出す。彼は才能のある方なので、義元が元康の隠れた才能を信じているという意味では非常にやりやすかったです」
そして、古沢氏が描く家康について、「『どうする家康』というタイトルからもわかるように、いろんな場面に遭遇したときに彼は決断をしないといけないのですが、決断していないような気もする。自分の思いで暴走するというよりも周りに助けられて流れに身を任せている」と述べ、「だからこそ周りが活躍する面白いドラマにもなると思います」と期待。
さらに、「主役だけでなく、いろんな人間像を見ることができる。視聴者が自身を投影できるような役がたくさんあって、その頂点に家康がいる。なので、見やすいと思いますよ」と魅力を伝え、「松本くんは『自分なりの家康像を確立するんだ』と話していました」と松本の思いも紹介した。
萬斎の大河ドラマへの出演は、細川勝元役を演じた第33作『花の乱』(1994年)以来、29年ぶり2回目となる。
「その間にもオファーはいただいたのですが、スケジュールが合わなかったりして。大河ドラマは長期のものですからそれなりの覚悟がないとできない。29年前は20代で、三田佳子さん、先代の市川團十郎さん、萬屋錦之介さん、京マチ子さんという、時代劇を背負ってきた銀幕のスターの胸を借りて、その方たちの演技を真剣に食い入るように見て、どうやったら対抗できるか、緊張感をもって臨んだ覚えがあります」
29年ぶりの現場で、技術の進歩なども実感しているという。「いろんなことが変わっています。前のときは全かつらで、衣装も時代考証そのままでしたが、今の衣装は作品のオリジナリティを出すために工夫がなされることがあったり、かつらも地毛を混ぜて作られています。また、スタジオでもロケさながらの映像が撮れるようになっていたり、技術の革新に驚いています」
最先端の技術を用い、新たな解釈で家康を描く本作。萬斎は「激動の時代から安定した時代になるというのは、今、我々が直面している状況にぴったりかなと気もします」と今の世の中と重ねつつ、「価値観が入り乱れている中で大きなリーダーがいるということ。そういう意味で家康の大きさが再評価されるというのはとてもいいことなのではないでしょうか。なだらかに、でもちゃんと中長期的な視点で考えている。このドラマと並行して家康がどう再評価されるのか楽しみです」と反響に期待した。
1966年4月5日生まれ、東京都出身。狂言師・野村万作の長男。祖父の故・六世野村万蔵及び父に師事。重要無形文化財総合指定者。東京芸術大学音楽学部卒業。国内外で狂言の普及を目指す一方、現代劇の出演・演出等にも意欲的に取り組む。芸術祭新人賞・優秀賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、朝日舞台芸術賞、紀伊国屋演劇賞、毎日芸術賞千田是也賞など受賞多数。2021年には観世寿夫記念法政大学能楽賞、松尾芸能賞大賞を受賞した。
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