埼玉大学、金沢大学、東京大学の3者は12月8日、マルチモード半導体レーザにおける縦モード間の「カオス的遍歴」を用いて、機械学習方式の1つである強化学習における問題例の解決方法を提案し、実験で実証することに成功したと発表した。

同成果は、埼玉大大学院 理工学研究科 数理電子情報部門の内田淳史教授、金大 理工研究域機械工学系の砂田哲教授、東大大学院 情報理工学系研究科 システム情報学専攻の成瀬誠教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。

半導体プロセスの微細化を中心として進化してきた、いわゆるムーアの法則は物理的限界が目前に迫り、微細化のペースが鈍化。ムーアの法則の継続、そしてコンピューティング性能の向上持続のために、新たな技術開発が求められており、光を活用した機械学習もそうした技術の1つとして注目されているという。

その取り組みの1つとして、強化学習の問題例として知られる、当たり確率が未知の複数台のスロットマシン(選択肢)からの報酬の最大化を目的とした「多腕バンディット問題」を、光ダイナミクスを活用して解くという研究が行われてきた。しかしこれまでの研究では、選択肢が多い場合に性能が劣化してしまうという課題を抱えていたという。

そこで研究チームは今回、複数の縦モードを有するマルチモード半導体レーザにおけるカオス的遍歴現象を利用して、多腕バンディット問題を解く方式を新たに提案することにしたという。

カオス的遍歴は、複数のカオス状態間を遷移する現象のことで、マルチモードレーザでは戻り光により1つ1つの縦モードがカオス状態となるという。また、カオス的遍歴は脳の自発的機能において、重要な役割を担う現象としても知られている。同方式に取り入れることで、既存研究で問題となった選択肢が多い場合にも対応が可能で、これまで用いられてきたアルゴリズムよりも、高効率に意思決定が実現できることが示されたとのことで、光のカオス的遍歴を利用することで、どんなに選択肢が多くても、既存アルゴリズムよりも少ない試行で、自発的に正しい選択肢を推定できると研究チームでは説明している。