――葵の身の回りには辛く悲しい出来事が何度も襲ってきて、そのたびに大声で泣く場面が多くあったと思います。あのように感情を高ぶらせ、涙を流す演技ではどんな苦労がありましたか。
撮影は順撮りではなかったので、”今日撮影するこのシーンは葵の身に何が起きて、どうして泣くのか”にすべての意識を集中させていました。私の出番の前に起きた出来事との「つながり」を意識して演じました。
――あのような辛いシーンを撮影するとき、平澤さんご自身も精神的にキツくなるのではないかと思います。
物語上の出来事だと割り切ってはいましたが、やっぱりふと独りになったとき、葵のことを思い出すと「うわぁ、かわいそう……」と思ってしまいます。それだけ、劇中で葵が見て、聞いて、感じたことが凄まじいということなんですけど、自分の心が「キツいな」と思ったときは、あえてその気持ちをそのまま現場へ持っていき、演技に役立てようと思っていました。
――三浦貴大さん演じるビルゲニアは葵にとって母の仇であり、憎むべき「敵」でしたが、やがてお互いの関係性を微妙に変化させていきますね。三浦さんとの共演はいかがでしたか。
三浦さんは今回の撮影現場でいちばんお話をした方だと思います。とても気さくで、話しやすい雰囲気をもった方です。最初の共演シーンが、いきなり第8話での、葵がビルゲニアを圧倒するというアクションシーンでした。そのとき三浦さんが「お互い、遠慮なしで行きましょう」と言ってくださったんです。互いの憎しみをぶつけあうシーンでしたし、動きに遠慮があったらリアクションがズレたりするので、一番最初にとても心強い言葉をいただきました。そのおかげで葵とビルゲニア双方の、とても激しい感情のぶつかり合いが描けたと思います。
――ビルゲニアは最後、葵を守るため自分の命を張って「人間」と戦うことになりました。第9話のあの衝撃的なシーンについてはどう思われましたか。
ビルゲニアが最期を迎えるところは、間近で見ていてすごく心が震えました。迫力がありましたし、ビルゲニアの考え方や、葵に対する思いが変化していく姿は、すごくカッコいいなと思いました。目の前に立っているビルゲニアを葵が見つめるシーンでは、台本では「葵がたたずむ」とだけ書かれていましたが、不思議と目に涙がたまってきて、あとちょっとでこぼれ落ちる……みたいな感じになり……。結果その涙を採用していただけました。
――第1話と第9話に、世界の人々に向けて葵が堂々とスピーチをするくだりがあります。すべて英語で、しかもかなり長いセリフを話されていましたが、あれだけのセリフを覚えて、感情を込めるのは難しかったと思います。長い英語セリフを覚えるためのコツがあるのでしょうか。
撮影の日に向けて必ず毎日一回は台本を声に出して読むことです。常に「セリフに触れておく」ということを意識していました。
――第9話では特に、スマホ画面の向こうからまるで視聴者に「お前はどうなんだ!?」と問いかけているかのような迫力で、われわれの心にも響くものがありました。
あのシーンは、撮影前からソワソワしてて、歩き回りながら台本を読んでいました。私が失敗すると、長いカットでも1から撮り直しになりますから。ただ英語でセリフを言うのではなく、このとき葵はどういうことを思い、どんなことを世界に伝えたいのか、をずっと考えました。
――最終回では、なんと葵がブラックサン/光太郎と同じ「変身ポーズ」を取りました。あの変身シーンを撮影したときのお話を聞かせてください。
最初は冗談だと思っていたんです(笑)。田口監督がある日突然「葵ちゃん、変身するよ」とおっしゃっていたのですが、台本にはそんなことぜんぜん書いてないし……。本当に変身するとわかったときはワクワクしました。やっぱり「変身!」というかけ声と変身ポーズというのは、憧れでしたから。でも変身するシーンの撮影直前まで、私がどんなポーズをすればいいのか決まってなくて、何を参考にしたらいいのかわからず、とりあえず歴代の仮面ライダーの変身ポーズや『仮面ライダーBLACK』(1987年)の倉田てつを(南光太郎役)さんの映像を観て研究しました。あの「両手の拳をギチギチギチ……と引き絞る動き」をやってみたいなって思いました。やるからには、最高にカッコいい変身にしたいという心がまえで取り組みました。
――最後に『仮面ライダーBLACK SUN』および仮面ライダーファンのみなさんに、平澤さんからのメッセージをお願いします。
この作品に携わることができて、心からうれしく思っています。「悪とは、何だ。/悪とは、誰だ。」というキャッチコピーのとおり、人にはそれぞれの価値観、考え方があり、それによって物事の「受け取り方」が変わるということを、本作は教えてくれていると思います。葵をはじめ、劇中に出てくる大勢のキャラクターはすべて確固たる信念を持っていて、自らの意志のまま行動しています。『仮面ライダーBLACK SUN』全10話、キャラクターひとりひとりに注目し、何度も繰り返し観ていただけたら嬉しいです!
(C)石森プロ・東映 (C)「仮面ライダーBLACK SUN」PROJECT