『新選組!』、『真田丸』、『鎌倉殿の13人』と、3作の三谷大河に出演してきた山本は「僕が言うのもなんですが」と恐縮しつつ「スピード感や、飛ばす部分の切れ味など、確実に腕に磨きがかかってきています。例えば『真田丸』では関ヶ原の戦いを戦のシーンなしで描いたし、『鎌倉殿の13人』でも武蔵坊(弁慶・佳久創)が立ったまま死ぬシーンがないなど、視聴者が観たいと思いそうなところを敢えて描かず、それを内側から見せてくれました。普通の大河ドラマは表舞台を描くのに、その裏側を見せた点は、三谷さんらしいところかなと。視聴者の期待を裏切っていく斬新さというか、三谷さんの作品でしかあまり見たことがない描き方でした」
さらに3作を比べたうえで「『新選組!』は青春群像劇という感じがしましたが、『真田丸』は真田信繁(堺雅人)が出世していく物語でした。今回も同じく出世の話ですが、時代に飲み込まれ、自分の信念をねじまげながらも、鎌倉のために命を懸けて生き抜くという鎌倉時代の義時の物語は、またテーマが違います。本当に歴史の内側を見せてくれたような気がして、より斬新さに磨きがかかったのかなと。また、ちょっとオトボケ的なものも織り交ぜていて、すばらしかったと思います」と感心する。
シリアスなシーンにおいて、コミカルなシーンをぶちこむというのは、まさに三谷作品の真骨頂だと言う山本。「三谷さんは、緊張するようなシーンにおいても、ずっと緊張させないんです。例えば、第21回の八重(新垣結衣)さんが亡くなるシーンで、僕が脱いで川に入るのですが、『え! ここ、僕が脱ぐ必要ありますか?』と一応聞いたんです。袴を脱ぐとか、まくりあげるとかならわかるけど、上を脱いじゃうなんて! と。でも、三谷さんから『いや、ちょっと見ている人の視線をこっちでごまかしたいから』と言われまして。それは、ちょっと重たくなりすぎるシーンなので、義村の裸体で気をそらしたいという三谷さんの計算でした」
ちなみに、陳和卿(テイ龍進)が作った巨大な船を海へ運びだす際に、八田知家(市原隼人)が着物をめくり上げ、筋骨隆々の上半身を見せて船を引き始めたあと、なぜか見物しているだけの義村まで、上半身をあらわにするシーンがあった。SNSではかなりツッコまれていたが、山本は同シーンについて「あのシーンは、僕がアドリブで脱いだんだろう? と言われましたが、僕のほうが台本通りなんです」とキッパリ言う。「台本に、義村は『なぜか裸になっている』と書いてあったけど、市原くんのほうは書いてなかったから、あれは市原くんのほうがアドリブです」と笑った。
また、『新選組!』の土方歳三と今回の義村について、最初から最後まで出演したこと、主役の相棒で一番近くに居るような存在」という共通点はあるが、立場的にはまったく真逆だと言う。
「土方さんは近藤を持ち上げるために、自分が二番手に回り、彼のために人生を捧げるような人でしたが、今回の義村は立ち位置こそ近いけど、忠義というものはまったく違う場所にある男です。どの瞬間も三浦の存続を考えて動くから、土方さんとはある意味、真逆かと。また、『真田丸』の三成公に関しては、すごく武骨で忠義の人間だったから、気持ちよく人生を全うできた役でした。大河ドラマは、ワンシーズンでがっと花を咲かせて、ぱっと散っていくという良さもあるけど、今回はそれがなかったので、まだ終わった感じがしないです。でも、本作は義時を描いた『鎌倉の13人』なので、旬くんが演じ終えて、僕はそれを見届けることができてよかったとは思っています」
クランクアップ後には、お互いに「お疲れ様」といったやりとりをしたそうだが、小栗について「今回は非常にいい距離感でやれた作品でした」と手応えを口にする。
「義村と義時はすごく近い存在のようで、お互いに腹の底を探り合っている部分も否めない関係性です。僕のほうが旬くんより年は上ですが、小栗旬と山本耕史という関係性においても、あまり語らなくても通じ合っている気がしました。この作品でより近づけたのか、今までがそうだったのか…。大河ドラマの撮影は1年半と長いので、義村が言っていたのか、俺が言っていたのか、わからなくなるところがあるんです。だから、優しくてものすごく夢にあふれている初期の義時のような小栗旬と、40代を前に中堅というか、ベテランの方になりつつあるなかで、主演として厳しくいなければと思っている小栗旬と、いろんな旬くんの人間性が見られた大河ドラマだったと思います」
残すところ、あと放送は2回となった『鎌倉殿の13人』。三谷氏は最終回で義時が最後を迎えることを明言していたが、いよいよ承久の乱が始まり、義村がどう立ち回るのか、今から楽しみでならない。
1976年10月31日生まれ、東京都出身。1987年に『レ・ミゼラブル』で舞台デビュー。ドラマ『ひとつ屋根の下』シリーズ(93、97)で注目される。三谷幸喜脚本の大河ドラマでは『新選組!』(04)、『真田丸』(16)のほか、大河ドラマ初の続編となるスペシャルドラマ『新選組!! 土方歳三 最期の一日』(06)にも出演。ドラマの近作は『剣樹抄~光圀公と俺~』(21)、『競争の番人』(22)など。現在『クロサギ』に出演中。映画の近作は『KAPPEI カッペイ』(22)、『シン・ウルトラマン』(22)、『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』(22)、『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』(22)など。
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