現在放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で、“2代目善児”こと暗殺者トウ役を好演している女優の山本千尋にインタビュー。トウを演じる際に意識したことや、脚本の三谷幸喜氏とのやりとり、善児への復讐シーンなどの裏話、そして、「かけがえのない時間になった」という大河ドラマ初出演の感想を聞いた。

  • 『鎌倉殿の13人』トウ役の山本千尋 撮影:加藤千雅

善児(梶原善)に育てられた孤児・トウ(山本千尋)は第29回から登場。第31回では、源頼家(金子大地)の側室・せつ(山谷花純)を暗殺、第33回では頼家を殺し、さらに育ての親でありながら、両親を殺した善児に復讐を果たした。第38回では、義時(小栗旬)からりく(宮沢りえ)殺しの命を受けるも義村(山本耕史)に見破られ失敗。そして20日に放送された第44回では、源仲章(生田斗真)を殺す任務を果たそうとするも捕まってしまい、SNSでは心配の声が多く上がった。

「日々生活している中で気づいたことなど、自分に取り入れられるものはすべて役作りだと思っている」と言う山本。トウ役においては「特に三谷さんからいただいた言葉や、現場で感じたもの、また、子役の子の映像を見たり、いろんなヒントをいただきました」と語る。

三谷氏からは課題のようなアドバイスをもらったという。

「『善児に親を殺されてからずっと、復讐するという執念を忘れることはなく、善児と一緒に生きていく。善児が拾ってくれなかったら自分は生きる手段がなかったから。そして10歳から18歳頃まで一緒に暮らしていく中で恩も感じてくる。そこの狭間で戦ってください』と言われて、難しい! と思いましたが、三谷さんから大切なアドバイスをいただけました」

そんなトウの複雑な心情を、善児を殺したシーンで見事に表現。「ずっとこの時を待っていた」「父の敵」「母の仇」と言いながら善児を刺して復讐を果たすも、その目には涙が浮かんでいた。

このシーンについて、山本は「役柄的にはずっとこの日を待っていたはずなのに、この日が来ちゃったという思いがありました」と打ち明ける。

「三谷さんがトウという人生の分岐点を与えてくださったシーンで、梶原善さん演じる善児が終わる瞬間でもあったので、一番プレッシャーを感じましたし、誰かの胸に刺さるいいシーンにしたいと思いました。善児もトウも人間味のない回が多かったですが、あのシーンは2人の人間味が出せるといいなと。暗殺者とはいえ感情がないわけではないということを視聴者の方に感じ取ってもらえていたらいいなと思います」

善児役の梶原は、役とは全く違って「現場でのムードメーカーで、基本的にずっと話しかけてくださいました」と人柄を紹介。善児にとどめを刺すシーンも、梶原が相談に乗ってくれたおかげで納得のいくシーンになったという。

「リハーサルで私が悩んでいるのを察してくれて、『復讐という思いは強いものの、善児に対する恩愛も忘れたくないんです』と相談したら、『じゃあ、向き合って顔を見て最後終わろうよ』と提案してくださったんです。直前の変更になりましたがスタッフさんたちも『いいね』と言ってくださって、忘れられないシーンになりました」

■「暗殺する側もけっこう心が病んでしまうんです」

淡々とミッションを全うしてきたアサシン善児は、登場するたびにSNSを賑わせる人気キャラクターへと成長したが、その善児に育てられたトウも注目を集める存在に。

善児から受け継いで大切にしたことを尋ねると、山本は「仕事は仕事ということですかね。善児も仕事人なので」と回答。また、「善児も一幡という存在が現れて親のような感情が芽生えていましたが、そういった人間味がわかるなと思う瞬間もたくさんあって、暗殺する側もけっこう心が病んでしまうんです。特に山谷花純さん演じるせつと金子大地さん演じる頼家を暗殺したときは3日ぐらい考えてしまうくらい引きずりました」と明かした。

ちなみに山谷からは「思いっきりいっちゃって! そのほうがうれしいし、すっきりするから」と声をかけてもらったと笑顔で話した。

三谷氏はそれぞれのキャラクターの最期を丁寧に描き、どれも印象深いものに。その最期をトウが作り出していると考えると、とんでもない重圧があったに違いない。

「1人の役が終わる瞬間、人生が終わる瞬間なので、私の演技で台無しにしたくないという思いもありました。『鎌倉殿』は誰かが退場するとき、結局みんな憎めない。やはりそれは三谷さんの愛で、よくインタビューで『どんな役の人もやりがいを感じて演じてほしい』とおっしゃっていますが、このキャラクターを三谷さんがどれだけ温めてきたのだろうと思うので、どのシーンも一つ一つ熱量を込めて演じないといけないなと思っていました」

重圧を感じつつも、トウが登場した頃から物語全体のダークさが増していたため、自分の役割に全うできたという。

「ちょうど世代交代のような時期でいろんな人が亡くなり、小栗さんの顔つきも変わってよりバチバチし始めたときに新しい顔として入らせてもらいました。出来上がっている華やかなムードの中に入る戸惑いがありましたが、登場人物たちがそれぞれ野望を抱き、自分の仕事に専念するという空気感を作ってくださっていたので、私もトウの役割を全うしようと、皆さんの殺気みたいなものに引っ張ってもらっている感じがしました」