およそ1年5カ月という長丁場の撮影を終えた小栗に、自身が成長できたことについて聞くと「自分としては特にないですが、俳優としては若い時から晩年までの義時までやらせていただいて、1人の人間を生き抜けたことが大きかったです」と手応えを口にする。

「後半では、台本をそんなに読まなくても、場面がなんとなく思い浮かぶようになっていました。自分が演じてきた義時だったら、きっとこういう行動をとるだろうと思っていると、台本にもそう書かれていたし、自分は義時として、ただそこにいればいいといった感覚になっていったことが、1つの自信につながりました。それは演技を超えていたし、僕は不器用なので、1人の人間を表現するために1年5カ月も使わないといけないんだなと感じました」と述懐。

そして、「もちろんこれまでの仕事も同じように臨んできたつもりですが、義時役は回を重ねれば重ねるほど、考える時間が多くなっていきました。だから、通常の映画やドラマに入った時も、初日の段階で同じくらい考え、役を深く読み取った自分でいなければいけないなと痛感しました。それを知れただけでも大きいですし、役にグラデーションをつけることができるようになったのではないかなと思います」と語った。

そんな大河の現場での経験をゲームにたとえて「1年5カ月ぐらいで、RPG(ロールプレイングゲーム)で言えば、8レベルぐらい上がったと思います。使える魔法が2つくらい増えたかと」とおちゃめな笑顔を見せる。

回を追うごとにSNSなどで称賛され、大河ドラマの新たな層をも開拓してきた『鎌倉殿の13人』。小栗にこれだけ盛り上がった要因について聞くと「やはり面白がってくれている理由は、物語の力だと思います」と断言する。

「毎回受け取る脚本は、自分たちが読んでも面白いと思いましたし、演じる僕たちをすごく前向きにさせてくれました。それに応えるべく、演出部、美術部などいろんなパートが一生懸命その世界を作ろうとしたことが相乗効果になっていったのではないかと」

『鎌倉殿の13人』は、12月18日に最終回を迎えるが、もしも大河ドラマで再度、主演のオファーが入ったら? との質問に「またいつかやりたいなと思っています。今回、ある種の成功体験をさせていただいたのでしんどいとは思いますが、今の日本で、どこを探しても、1年4~5カ月をノンストップでやり続け、48回をかけて1人の人物を描ける環境なんてなかなかないと思いますから」と意欲を見せた。

その際に演じたい役柄については「できれば北条義時のように、あまり皆さんにとって先入観のない人物を演じる機会をまたもらえるのなら、ぜひやらせていただきたいです。僕が今回、義時役をここまで楽しめたのは、『義時のこと、そんなに知らないでしょ?』と言えることがすごく大きかったと思うので」と話した。

最終回放送日の8日後の12月26日に40歳を迎える小栗。今後の展望を尋ねると、「特に何も考えてなくて、とりあえず休みたいと思っていたら、吉田鋼太郎さんから『舞台をやろう』と言われてしまいました」と笑い、「舞台が終わったら1回、本当の意味で自分の今後を考える時間を作らなければとは思っています。また、すごく興味をそそられているお話を何本かいただいている環境でもあるので、そういうものもひっくるめて、自分が今後、役者としてどういう形で生きていくのかを決めていきたいです」と語った。

大河ドラマの主演を全うし、俳優としてさらに一回りも二回りも成長した小栗。40代の新章への期待度は未知数だ。

■小栗旬
1982年12月26日生まれ、東京都出身。98年、ドラマ『GTO』で連続ドラマレギュラーデビュー。03年、舞台『ハムレット』で蜷川幸雄演出の舞台に初出演し、蜷川作品の常連となる。主な出演作としてドラマ『花より男子』シリーズ(05~07)、映画『クローズZERO』シリーズ(07/09)、映画『銀魂』シリーズ(17、18)、『罪の声』(20)、ドラマ『日本沈没-希望のひと-』(21)など。また主演舞台『ジョン王』(東京・Bunkamuraシアターコクーン他)が12月26日より幕を開ける。

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