今作の大きな特徴は、物語のほぼ全てを恋愛中心に描いていることだ。このドラマが放送されている「木曜劇場」枠では、昨年から恋愛ドラマを多く編成する傾向があるが、それらの作品を振り返ってみても、お仕事ドラマに恋愛を絡めた『レンアイ漫画家』『推しの王子様』『SUPER RICH』、SF要素を加えた『知ってるワイフ』と、純粋に恋愛だけで進行する作品はない。
また、恋愛ドラマにおいて必須とも言える“恋敵”が存在しないため、関係がもつれることで誰かを恨んだり、無下に傷つけ合うという場面がなく、ただただ登場人物たちの恋模様、心模様を丹念に、優しい世界観の中で紡いでいくことでドラマが成立している。実はそこが、これまでになかった画期的な恋愛ドラマと言われるゆえんなのだ。
それが顕著だったのが、風間監督が担当した第5話(11月3日放送)。この回は、前話で紬(川口春奈)と想(目黒蓮)の関係性を察した湊斗(鈴鹿央士)が紬に別れを告げ、それを認めたくない紬が“ギリ別れてる”状態から“別れる”までという、たったそれだけの過程を1話かけて見事に描き出した。
この脚本を読んで、「挑戦的だなと思いました。“別れる”というその事実に、2人がどう向き合っていくかということに1話かけられるという贅沢さも感じましたね」という風間監督。
そして、「脚本の段階から面白いんです。対話による距離の満ち引きの面白さがすでにあって、紬の口から湊斗への素直な気持ちが初めて開示されるお話だったんですけど、その吐露に向き合おうとしたら、逆に時間が足りないんじゃないかと思うくらい語られることの多さを感じました。だからこそ非常にやりがいも感じましたし、全話を通しても分岐点になるような回だろうなと思いました」と捉えたそうだ。
■「想像してもらいたい」バックショットの映像構成
とは言え、ほぼ“会話劇”だけで進行させる構成だったため、演出による工夫が随所に施されていた。
「紬の家や、湊斗の家、フットサル場など留まったシチュエーションでの場面が多く、そこで長い語らいが続いていくので、見る人に、想像性を楽しんでもらえるような工夫が必要だろうなと思いました。全体を通してバックショットが多かったと思うんですけど、それは彼らの心の内奥にある素直な気持ちをのぞき見るような感覚に導きたかったのと、その気持ちを語っている彼らは、どんな表情をしているのか、本心はどこにあるのかなど、視聴者の皆さんに想像してもらいたいという思いを込めて映像構成をしました」
この第5話で圧巻だったのが、約10分間にわたる紬と湊斗のLINE通話のシーン。ここでも、「クライマックスが長い電話の場面になっていくんですけど、できるだけ湊斗の顔を映さないようにしたんです。それも視聴者の方に、紬が語るその先で湊斗がどんな表情をしているのか想像してほしかったんです」と委ねた。
こうして丹念に作りこまれた映像世界だからこそ、多くの視聴者がくぎ付けになり、何度も見返したくなる。それが、記録的な再生回数にも表れているのだろう。