――監督のコメントにも、「井浦さんは『自分の限界を突破する』をスローガンに掲げていた」とありました。
今回の作品においては、メンタル的にもフィジカル的にも、どこか勝手に、自分で自分を追い込んでしまうようなところがあったんですが、どこか壊れていく感じが逆に芝居といい感じにブレンドされて。踏ん張りが効かない、枯れたオッサンになっていったりするところが、川澄という役とちょうど重なるようなところもあって。森監督は、小手先の芝居を求めている人ではないというか。一人ひとりが背負っている物を、現場でどう表現するかを大切にされている方なので。限界を超えるまでやらないと監督には届かないんです。いま振り返ると、クランクアップ時も「明日から本当に普通の生活に戻れるのかなぁ」といった怖さがあったような気がします。変な話、キツくても川澄のままでいる方がまだラクなんです。
――柴田さんが「あぶデカ」のような軽やかなお芝居から、重厚感のある役柄へと変容されてこられたのに対し、井浦さんは割とシリアスなところから入って、近年は軽やかな作品にも挑戦されつつ、またこうして今回のようなシリアスな作品にも取り組まれていますよね。
どちらかと言えば、僕は社会派と呼ばれるような重い作品にしか縁がないなぁと思ってましたから。死んだり、殺されたり、殺したり、爆破したり……と、割とずっとそんな感じで(苦笑)。コミカルなキャラクターができるようになったのは、最近と言えば最近です。基本的にはいただいたお話は、スケジュールが合いさえすれば断らないようにしているんですが、そのなかでも「流れ」というものが、僕はすごく大事だと思っているんです。
例えば、この作品に向かう前の2021年は、『にじいろカルテ』『あのときキスしておけば』(いずれもテレビ朝日系)、『最愛』(TBS系)と、3本のテレビドラマをやらせてもらってたんですが、3本とも全く違う世界観で、役柄もどれもこれもまったく違っていて。作品は違えど同じような役が続くと、僕はどうしても飽きてしまうタイプなんですが、去年は、物語も、世界観も、お芝居も、全て違うアプローチで取り組めたので、一個一個の反動を上手く利用することができたんです。正直「50前のオッサンがラブコメをやってもいいのかな」と思ったりもしたんですが(苦笑)、やったことがない表現を試せるという喜びもあって。
今回の『両刃の斧』はドラマではあるけれど、映画の布陣で集まっていて。監督も一人だし、映画を撮っているのとほとんど変わらないんです。昨年テレビの現場でいろんな出会いがあって、素敵なことが起きて、新しいことにもチャレンジできて。それをちゃんと栄養にして、その反動で、こんなド級の重量級作品にもぶっ飛んで行けたわけで。選んでないつもりでも、自然といい流れが生まれてる。そういう意味では、僕はすごくラッキーな俳優なんだと思います。