プロデューサーという立場で、村瀬P自身が特にこだわったというのが、リアリティを追求したロケーションだ。「連続ドラマは、みんなが自分の物語として見るのが一番いい。だからこの世界の、東京で起こっているドラマなんだっていうのを感じてほしくて、実際の場所をお借りして、リアリティを出していくことを意識しました」と強調する。
中でも珍しいのが、主人公が頻繁に使う「小田急線・世田谷代田駅」や、バイト先の「タワーレコード渋谷店」など、実在の駅名や店名が登場する点だ。
「小田急さんが連続ドラマに協力してくれるのは初めてだそうで、小田急さんにロケ地の相談をした際に、駅周辺がきれいで比較的乗降者数が少ない世田谷代田駅はどうですか、という提案があって、ロケーションもめちゃくちゃ良くて気に入ったので選びました」
「主人公がCD ショップで働いている設定になった段階で、一番有名だし、僕自身も学生時代から通っている“渋谷のタワレコ”に決めました。ありがたいことに、快く貸していただけました」
実際の場所を使わせてもらうことについて、放送後に思わぬ事態が起きた。「おかげさまですごく話題にしてくださって、聖地巡礼じゃないですけど、現場を見に来てくださる方が多くいらっしゃるようになったんです。近隣の皆さんに迷惑をかけられないので、そこを気遣いながら撮影をしていますね」と、うれしい悩みになっている。
映像にも、村瀬Pのこだわりが詰まっている。「風間(太樹)監督が映像をすごくきれいに撮るタイプで。撮影が片村(文人)さんというCM などを担当されている方なのですが、きれいな映像で映し出すことはこのドラマの世界観にぴったりだと思って、キャスティングと同時にスタッフィングも僕がしました。画角で言うとちょっと“緩め”にしてあって、2ショットでも余白が多い、そういう撮影を意図的にしてくださっています」と教えてくれた。
さらに、「芝居の“感情”のシーンは1テイクか2テイクで撮るようにしているんですけど、例えば、第1話のファーストシーン(=雪が舞う団地の場面)は、美術さんも照明さんもみんな頑張ってくれて、とっても大きなクレーンを借りて、何度も何度も、何時間もかけて撮りました」と、撮り方のこだわりも明かした。
■視聴者の“考察”に驚かされる
そんな才能あふれる脚本と、丁寧に撮影された本作は、視聴者からの反響もかなり大きく、第3話のラストで登場した“テントウムシ”に対する視聴者の“考察”に驚かされたそう。
「“テントウムシ”が実は幸せを運ぶ虫だというのは、僕らが打ち合わせしたときにも出ていたんですけど、“テントウムシ”がスピッツの『魔法のコトバ』(※第1話で登場する主人公たちの思い出の曲)のジャケットにも描かれているっていうのは、僕らの遊び心でやっていたことだったので、そんなところまでまさか視聴者の方にも気づいていただけるなんて驚きました」
「シンプルで静かなドラマが、ここまで多くの方に受け入れてもらっているのはすごくうれしいし、感謝しています。視聴率もさることながら、(見逃し配信の)再生回数が多かったり、周りに話したくなる、語りたくなるドラマだと言ってくださるので、新しいテレビドラマの“モノサシ”みたいなものが生まれ始めているじゃないかなと思っています」と手応えを語る村瀬P。
物語は後半に差し掛かるが、視聴者の大きな反響を巻き込みながら、この静かなドラマがどんなストーリーを展開していくのか期待したい。