女優の川口春奈、アイドルグループ・Snow Manの目黒蓮らが出演するフジテレビ系ドラマ『silent』(毎週木曜22:00~)。本気で愛した人と、音のない世界で“出会い直す”、切なくも温かいオリジナルラブストーリーで、Twitterでは放送されるたびに「#silent」が世界トレンド1位にランクインし、見逃し配信ではフジテレビの全番組で歴代最高を記録するなど、今最も話題を集めているドラマだ。

プロデューサーを務めるのは、『SUMMER NUDE』(13年)や『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(16年)など、これまでもオリジナルのラブストーリーを手がけてきた村瀬健氏。今作への思いとこだわりを聞いた――。

  • 鈴鹿央士(左)と川口春奈=『silent』11月3日放送の第5話より (C)フジテレビ

    鈴鹿央士(左)と川口春奈=『silent』11月3日放送の第5話より (C)フジテレビ

■「めちゃくちゃ才能のある人だな!」

このドラマの特徴は、恋愛描写の純度の高さだろう。最近のラブストーリーは特に、主人公カップルの行方だけでなく、“お仕事パート”など、登場人物を取り巻く周辺環境にも物語を用意しており、恋愛のみに時間を割く作品は少ない。しかし今作は、主人公たちが働く場面も当然登場するが、それは彼らの生活の一部を切り取るためのものであり、多くの物語を“誰かが誰かを思う”=“恋愛”(もしくは“友情”)を描くことに集中している。その考えは、村瀬Pの企画段階からあったものだという。

「会社から22年10月期の木曜10時という枠を任されたときに、大人の鑑賞に堪えうるラブストーリーを作ろうと思ったんです。“展開”で盛り上げるのではなくて、“好き”という気持ちを丁寧に描いていくことで物語を展開させる。そういうラブストーリーにしようと思って、この『silent』を企画しました」

脚本を務めるのは、昨年の『第33回フジテレビヤングシナリオ大賞』受賞者である生方美久氏で、これが連続テレビドラマデビュー作品。第1回(87年)の坂元裕二氏や、第2回(88年)の野島伸司氏と同じく、同局が“発掘”した逸材であり、昨年の受賞から早くもオリジナル作品を一任されるという大抜てきだ。

「“ヤンシナ”の審査員に僕も入っていまして。応募作品を読んだ時点で『めちゃくちゃ才能のある人だな!』と思ったので、この枠を僕が任されるより前、まだ次回作をやるかどうかも決まっていない段階だったのですが、『何か一緒にやろう!』とお声がけしました」という村瀬P。この物語の大きな核となっているのは、生方氏が最初に書いてきた登場人物たちの“プロフィール”にあるという。

「こういう話をしようとなったときに、生方さんが登場人物の設定はこんな感じという“プロフィール”を作ってきてくれたんです。それがA4ペラ1枚2枚とかの文量だったんですけど、とても良くできていて、それぞれの登場人物たちにどういう出来事があって、どういう人生を送ってきたのかがすごく分かるようなものでした」

その“プロフィール”によって、「僕も監督も、キャラクターがどんな人物なのか自然と頭に浮かべられるようになったし、生方さんもそれがあるからこそ、セリフを作るというより、登場人物たちが勝手にしゃべっているイメージで書いているんだと思います」と、ストーリーを作る上で大きな効果を発揮している。

  • 生方美久氏(左)と村瀬健プロデューサー (C)フジテレビ

■キャスト陣も「本を愛してくれている」

今作は事件や事故など大きなドラマが起こるわけではなく、丁寧な会話のやりとりで物語を紡いでいくという、ある意味挑戦的な構成だ。このような作品作りは、生方氏への大きな信頼がもとになっている。

「彼女の才能を信じているので、良い意味で、好き勝手に書いてもらっています(笑)。そして出来上がったものに対して、僕らはそれが一番面白いと思っているし、そのまま受け入れているという感じですね」

とは言え、これまで多くのテレビドラマを手がけてきたプロデューサーの立場からアドバイスすることはないのか聞いてみると、「それはもちろん、細かい部分でアドバイスはいっぱいしています。あと、生方さんが書いてきたものはすごく良いんだけど、どうしても1時間では収まらない長さになってしまうんですよ。だから、いかに良さを残しながら削るかということをやっていますね。例えばある話で、これまで全くいなかった登場人物が出てきたんです。そのお話自体はすごく良かったんだけど、『この人はここで登場させたほうがより効果的だよね』とか、そういうアドバイスなどをしています」と明かす。

脚本への信頼はスタッフだけでなく、出演者からも“お墨付き”。「大作家先生ではないので、一字一句変えちゃいけないという感じでは全くないんですけど、セリフのディテールがとてもいいので、役者さんも本を愛してくれていて、強制するわけではないのに“てにをは”まで変えずにしゃべってくださっています」とのことだ。