大阪大学(阪大)は10月21日、光の99.99%の速度で移動する電子ビームの周りに形成される電場の時空間分布を計測し、100年以上前にアインシュタインによって予言された「電磁気における特殊相対性理論」を直接的に実証することに成功したと発表した。
同成果は、阪大 レーザー科学研究所(ILE)の中嶋誠准教授、阪大 理学研究科 宇宙地球科学専攻の太田雅人大学院生(現・ILE 特任研究員)、阪大 産業科学研究所の菅晃一助教、関西大学の浅川誠教授、三重大学大学院 工学研究科の松井龍之介准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の物理学全般を扱う学術誌「Nature Physics」に掲載された。
アインシュタインが1905年に発表した「運動物体の電気力学について」という論文において、2つの相対性理論のうちの「特殊相対性理論」が提唱された(「一般相対性理論」の提唱は1915年)。その内容は、“光に近い速度で移動する物質は、時空の歪みの影響を受ける”というもので、その後、同論文で述べられた“時間の遅れ”や“静止質量”といった物理現象は、多くの研究者によって実験が行われ、検証済みとなっている。
しかし、論文のタイトルにある「電磁気」における特殊相対性理論の直接的実証に成功した研究報告はいまだに存在しないという。2015年に初検出された重力波も「アインシュタインが残した宿題」と呼ばれていたが、まだ論文のタイトルにも関係する大きな宿題が残されていたのである。
荷電粒子が生成する電場は、放射場とクーロン電場に二分することが可能で、放射場は、荷電粒子が軌道を曲げるなどの加速度運動を行う際に生成される。それに対してクーロン電場は、荷電粒子が静止していても移動(等速直線運動)していても、常に荷電粒子の周囲に生成されることが知られている。
高エネルギー電子ビームが生成するクーロン電場は、近年ではビーム診断などの応用面で研究されてきたが、相対論的クーロン電場の本質に迫る基礎的な研究は行われていなかった。そこで研究チームは今回、今まで行われて来た間接的な検証とは一線を画す、相対論的クーロン電場の時空間分布のスナップショット計測を行い、クーロン電場の相対論的性質を直接的な実験手法で明らかにすることにしたという。