• 長澤まさみ

本作が社会派と言われる理由についても明かされていった。佐野Pは「女性差別問題」を扱ったことについて「主人公の恵那の職業は、日本独特のもの。アンカーでもジャーナリストでもない“女子アナウンサー”という、自分の言葉で語ることを許されないポジションです。若くて美しい外見を持った女性だけが就くことができる職業として日本では存在しています。そのこと自体が大きな問題をはらんでいます。いろいろな日本の問題を象徴していると思うのです。そんな彼女が他者から評価されることから脱却して、自分の価値を取り戻していく。これがこの物語の大きな縦軸にあります。自分がドラマで描きたかったテーマの1つでした」と説明した。

えん罪事件を主軸に置いた理由についても聞かれると、佐野Pは「日本の司法制度は国際社会と比較すると、随分と遅れていると思っています。“人質司法”と呼ばれることが象徴するように、逮捕されたら罪を告白するまで拘留され、釈放されません。弁護士との帯同も許されない。遅れている仕組みであり、えん罪を生み出すケースもあります。作品を通じてこの問題を視聴者に訴え、日本の司法制度を変えるきっかけになる議論を作り出すことができれば本望です」と、臆することなく答えた。

これを受けてムスラー氏が感心していると、佐野Pは作り手としての思いも言葉にした。

「“ドラマは時代を映す鏡”という言葉が日本にはあります。生きている中でどうしたって感じてしまう生きづらさや、女性であるがゆえの生きづらさなど、こうした思いを抱えている人たちがもっと住みやすい社会になるようにドラマが貢献できればと日々思っています。だから、そうした観点でドラマ作りをしてしまうのかもしれませんね」

  • 著者撮影

■海外メディアも意欲作として報じる

再び、三浦に質問が投げかけられる。米アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』に出演した三浦だが、「映画とテレビ、どっち好む?」と問われると、「それは難しい質問ですね」とかわすだけでなく、「テレビドラマをご覧になる方は人数として多いという印象を持っています。映画と比べると、正直なところ、テレビドラマは人気のある役者が出演し、作品に関わる人数も多い。大きな影響力を持つコンテンツという印象もあります。私自身はこの10年、映画の仕事をメインとしてきました。どちらが好きと言えるほど、テレビドラマのことをまだ知らないのが正直なところです。だから、もっと知りたいと思っています」と、冷静かつ前向きに答え、トークセッション全体を通じて堂々たる印象を残した。

本作が日本社会における女性差別の問題や司法制度の遅れを問いかける意欲作であることを報じた海外の業界メディアも多く、米最大手のエンタテインメント誌『Variety』もその1つにあった。今回の上映会を通じて、日本のテレビドラマ作りの一端を伝えることができたが、次に期待されるのは世界の視聴者にも届けられる日が来ることだ。24日から始まる日本での放送に続く話が待たれる。

  • 撮影:Carl Thomson