CePc2分子を金(111)表面上に昇華法によって薄膜形成した場合、下部のフタロシアニン配位子が金表面でフタロシアニン独自の安定構造を取ろうとする。もし上部のフタロシアニンが分子結晶で見られるθ=45度を保って積層した場合、立体障害が生じ配位子が衝突してしまう。このとき、分子はθ=45度からθ=0度に配位子を回転させてスリムになることで、高密度の薄膜を形成しようとし、同時に分子に磁性が生じるという。
この自動的な分子の内部構造変化は、今回の研究において、実験的に走査トンネル顕微鏡を用いて観測され、また局所的な磁性の発生もトンネル分光により「近藤状態」を検知することで確認されたとする。
磁場の制御にはさまざまな提案がなされてきたが、機械的な「曲げる」という単純な動作で磁場が変化することは、ほとんど利用されていないという。
ただし局所的な曲がりの制御は、同じ二次元物質のグラフェンでは、「グラフェン・オリガミ」という研究テーマとしてすでに盛んに行われているという。直接的には、走査プローブ顕微鏡の探針でグラフェンシートをナノメートルスケールで切り、片方を持ち上げて折りたたむ実験はすでに示されているとするほか、短冊状の原子層である「ナノリボン」の片方にのみ電場を印加して、静電力で機械的な曲げを生じさせる手法も議論されているという。
加えて、光などの刺激で分子の形状が変化することも広く利用されている。それらと組み合わせることで、ナノスケールの原子層材料での一般的な磁場制御手法に発展することが考えられると研究チームでは説明している。
なお、薄膜中の分子の充填率変化で分子構造の変化が生じ、磁性を制御する手法について研究チームでは、今後スピン制御と情報伝達を結びつけるスピントロニクス材料の局所磁性制御法として情報処理やセンサ応用が期待されるとしている。