10月9日放送のドン32話「けっとうソノ2」も、放送直後にファンからの大きなリアクションがあった回だった。ドンモモタロウに敗れ、命を失ったソノイ(演:冨永勇也)の仇を討つため、脳人の仲間、ソノニ(演:宮崎あみさ)とソノザ(演:タカハシシンノスケ)がタロウに決闘を申し込む。
ストーリー展開は、ソノイとタロウが1対1で決闘するドン27話「けっとうマジマジ」を下敷きにしており「ソノニが突拍子もない場所でタロウに決闘を申し込むシーン」、そして「決闘に向けてソノニとソノザがドンムラサメ(声:村瀬歩)を相手に特訓するシーン」、さらに「日常の仕事(宅配便)を優先させているため約束の時間をブッチぎるタロウ」と「それを知らずに心配するはるかたち」「仕方なくタロウの仕事を手伝いはじめるソノニ、ソノザ」といった一連のシーンがドン27話と同じように展開していく。ドンモモタロウとソノニ、ソノザの決闘の場所に、ヒトツ鬼(今回は轟轟鬼)が乱入してきたため、ドンブラザーズの仲間たちも現れて大乱戦になってしまうのも同じパターンだった。あえて前の回と同じシチュエーションで、少し人選を変えて繰り返し、笑いを取る(お笑いの世界では “テンドン”と称される)、連続ドラマならではのテクニックが用いられた。
今回、轟轟鬼になった大野稔(演:榊原卓士)はドン11話で「手裏剣鬼」、ドン27話で「魔法鬼」と、複数回ヒトツ鬼に変貌したしつこい男。強い欲望が暴走して生まれるヒトツ鬼は、ドンブラザーズに退治されると元の人間に戻るのだが、大野はよほど欲望が強いのか、何度もヒトツ鬼になってタロウの前にたちはだかる面倒な奴だった。ドン32話では、そんな大野の最後(おそらく)の大暴れと、ドン18話「ジョーズないっぽん」にもつながる意外な彼の家族関係が明かされている。
1対2の決闘だったはずが、敵も味方もどんどんかけつけて混乱を極める中、「脳人(ノート)」元老院の謎の儀式によって復活したソノイが、なんとドンモモタロウよろしく「神輿」に乗って高笑いをしながら現れた。ドン29話「とむらいとムラサメ」でソノイの葬式に招かれたタロウは、ソノイの「鎧」にエネルギーを奪われた。元老院はソノイの亡骸にタロウのエネルギー(液体のように見える)を注ぎ込み、これによってソノイがよみがえったのだと考えられる。復活したソノイは以前のようにクールなたたずまいを維持していながら、仲間のソノニ、ソノザを「お供たち」と呼ぶなど、どことなくタロウ的なふるまいを見せていたのが気になるところ。しかも、ドン27話とまったく同じ場所、同じ状況でソノイとタロウが勝負し、今度はタロウが倒されてしまった。ドン27話の劇中でタロウは「負けるときは負ける。勝つときは勝つ。そういうもんだ」と自身の「勝負論」を仲間に解き、自分に特訓は無用だと告げていた。その言葉どおり、敗れてしまったタロウが今後どのようにして「再起」を果たすのか、果たさないのか、今後の展開に注目が集まっている。
ドン32話の気になるポイントはいくつかあるが、特にここで取り上げたいのはタロウの「強さ」に圧倒されたジロウが、タロウの育ての親・桃井陣(演:和田聰宏)に「なぜタロウは強いのか」と尋ねるシーンである。陣はタロウの強さの秘密を「タロウだからだ」と説明する。普通に聞けばぜんぜん説明になっていないため、ジロウの困惑ぶりはまさしく視聴者の困惑と同じだった。タロウの強さは理屈では説明がつかず、タロウであるがゆえに強い。ストーリーの都合上でものすごい強さを発揮するヒーローは多いが、ここまで劇中ではっきり「強さ」の正体が「存在自体にある」と語られたヒーローはそういないはずだ。
ここで2011年に発行された一冊の書籍を紹介しよう。題名は『昭和ヒーローを作った男 伊上勝評伝』(徳間書店)。『隠密剣士』(1962年)『仮面ライダー』(1971年)『仮面の忍者赤影』(1967年)『ジャイアントロボ』(1967年)など、昭和のテレビ界でいくつもの大ヒット「ヒーロー」を創造した脚本家・伊上勝氏の業績を、氏の長男・井上敏樹氏による「回想」原稿と、平山亨プロデューサー、阿部征司プロデューサーをはじめとする関係者の証言によって浮き彫りにする骨太の評伝本だった。
「回想 伊上勝」の中で井上氏は、父・伊上勝の代表作のひとつ『仮面の忍者赤影』をテレビアニメ化した作品(1987年)を書くにあたり、赤影が仮面をつける理由として「普段は塾の先生をしていて、仮面をつけると忍者になる」と設定を定めた。しかし伊上氏はアニメを観て「こんなものは赤影ではない」と言ったという。そこで井上氏は「ではなぜ赤影は仮面をつける必要があるのか」と尋ね、伊上氏は次のように答えたそうだ。
「赤影だからだ」
赤影に限らず、昔のヒーローは「助けた人」と密接な関係になることを避け、悪を倒して人を助けたらいずこかへと去っていくのが常だった。井上氏は赤影の「仮面の意味」を人々との関係性を遮断するために必要なものだと理解。このとき、井上氏は父・伊上勝から「ヒーローの原型」とはどういうものなのか、を伝えられたと述懐している。その後、ヒーローの在り方は時代の流れに合わせてさまざまに変化を見せていくが、いろいろなものを取り払った「原型」「原点」を見つめ直すのは重要な作業といえる。井上氏が桃井タロウのキャラクターにいくつもの要素を加えて魅力を高めようとしているのは画面上からも伝わってくるが、その中に、父・伊上勝氏から受け継がれた「ヒーローがヒーローであるために必要なもの」が含まれているように思えてならない。
「タロウだから強い」の言葉どおり、敗れたはずのドンモモタロウは10月16日放送のドン33話「ワッショイなとり」で、「黄金」色に輝く姿となって復活を遂げることが、予告編にて明かされた。いかにしてタロウがパワーアップを果たすのか、そしてドンブラザーズと脳人、獣人(ジュート)との戦いはどうなるのか。今後も愛すべきキャラクターたちそれぞれの行方を見守り、敵も味方も応援せずにはいられない。
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