――長年にわたり絶対的な指標だった世帯視聴率の捉え方が大きく変わり、フジテレビさんは個人全体視聴率とコアターゲット(13~49歳男女)を重点指標に設定していますが、この流れはどのように捉えていますか?
僕らのときは世帯視聴率で20%とか30%で大ヒットという時代で、みんな、1ケタのときはもう穴があったら入りたいという気持ちになっていましたよ(笑)。全体の視聴率が下がってきている中で、なかなか世帯で数字が取れなくなってきている部分はありますが、やっぱり慣れ親しんだ数字でもあるし、過去との比較もしないといけないから、世帯視聴率も残しておいたほうがいいと思います。この間放送した、小泉孝太郎さんとムロツヨシさんの特番(9月28日放送『小泉孝太郎&ムロツヨシ 自由気ままに2人旅』)は、小泉元総理と孝太郎さんの親子初共演が大きな話題になって、世帯で14.7%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)をとりました。そういう数字が出ると、こちらも勇気をもらえますよね。
一方で、視聴率というのは番組の力量を知る意味だけでなく、セールスの指標でもあるので、技術が進歩して誰が見ているのかがよく分かるようになってくると、CMを出稿してくださるスポンサーの皆さんは、個人全体、さらにコアという比較的若い世代の指標を大事にされます。おかげさまでフジテレビはもともと若い世代に親しまれてきた局なので、世帯や個人全体は少し足踏みしていますが、コアでは2位をとれているので、そういうところは大事にしていきたいと思っています。
ただ、面白いものを作れば、コアも全部含まれると思っています。番組を作るのに「コアを意識して」なんてことは関係なくて、わざわざ意識しなくてもそこを得意としてやってきたのだから、得意なところで思い切り球を投げればいいのではないかと。それに、タイムテーブルの多様性というのを考えたときに、お笑いばかりとか、ラブストーリーのドラマばかりでは飽きてしまいますよね。GP帯は4時間×7日間で28時間もあるので、うまく配分しながら、もともと得意だった若い人に向けた番組を思い切り作ればいいのでは?という話をしています。
――テレビ視聴に加え、TVerやFODと配信も拡大してきていますが、こちらへの期待はいかがでしょうか。
視聴者の皆さんも忙しいし、見るものもいっぱいあるから、せっかく作ったものがなかなか見てもらえなくなってきています。そういった状況の中で、TVerがあると見てもらえるチャンスが増えるので、とてもいいことですよね。おかげさまで、TVerなどで展開しているAVOD(広告付き無料配信)の再生数や視聴時間などは、局別で1~2位をとれています。若い人が積極的に見に来るところでこういう結果が出ていることは、フジテレビにとってとてもいいことだと思っています。FODも、民放の中で最初に始めた配信サービスですが、おかげさまでスマホアプリが2,000万ダウンロードを突破しましたし、TVerと合わせて、とても伸びしろがあると思うので、力を入れていきたいですね。
――地上波というビジネスが頭打ちとなり、配信が今後伸びていくという中で、この両者の将来的なイメージはどのように描いていますか?
やっぱり地上波放送収入は今でもシェアが大きいわけですから、そこは看板番組を作って今後も大きな柱としてやっていきます。それに加え、配信もそうですが、アニメ、イベント、映画、そしてどこかと組んでグローバルな展開というのも伸びしろがある。放送収入は日本経済の中でどこかで限界というものがありますが、それ以外は限界が分からないので、両立するような形でやっていきたいですね。
■現代人の年齢は八掛け「56歳くらいの感覚でやっています」
――冒頭で古希というお話もありましたが、もっと若い人が社長をやるべきという声もあると思います。これについては、どのようにお考えですか?
まあ、社長ってそれぞれの会社でその時その時の事情があると思っています(笑)。冒頭で言ったように、三冠を現場で2回経験している僕が、社長としていろんな号令をかけたり、みんなと議論したりすることが、このタイミングとしては必要なことであると思います。
現代人の年齢は昔の年齢の八掛けくらいの感覚だと思っています。60歳だったら48歳、70歳だったら56歳くらい。自分は56歳くらいの感覚でやっています。
――いろいろお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。来年に向けて種をまいている状況だと思いますが、その期待のほどを最後に伺えましたら。
フジテレビは、もともと明るく楽しく元気な会社で、2回三冠をとっています。少し前にできたことが、今、できないわけはないだろうとみんな気づくと思いますし、それに向けた環境づくりが自分の仕事だと思います。番組作りが窮屈になっていたら社長としてそれを取り払うことが大事ですし、人間はモチベーションで動くので、そのために「港賞」とか、各現場の陣中見舞いとか、ちょっとしたことですが、社員・スタッフのモチベーションが上げられるようにと考えています。みんながモチベーション高くやってくれれば、来年にはきっといろんなことが起きていくだろう、と期待しています。
●港浩一
1952年生まれ、北海道出身。早稲田大学卒業後、76年にフジテレビジョン入社。人事部に配属後、79年にバラエティ制作部門に。『オールナイトフジ』『夕やけニャンニャン』などのディレクターを経て『とんねるずのみなさんのおかげです』『とんねるずのみなさんのおかげでした』総合演出・プロデューサーを00年まで担当。その後、バラエティ制作担当局長、常務取締役などを経て、15年から共同テレビジョン社長。22年6月、フジテレビ社長に就任。