早稲田大学(早大)、理化学研究所(理研)、大阪大学(阪大)、科学技術振興機構(JST)の4者は9月30日、ガンマ線を可視化できる高感度コンプトンカメラを開発し、雷雲から生じるガンマ線のイメージングに成功したことを発表した。
同成果は、早大 理工学術院の片岡淳教授、理研 開拓研究本部の榎戸輝揚 理研白眉研究チームリーダー、阪大大学院 工学研究科の和田有希助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、地球化学全般を扱う学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。
近年、雷雲中の強い電場で電子が加速され、X線やガンマ線を放出することがわかってきた。雷から生ずるガンマ線には、継続時間が数百ミリ秒と短く、稲妻の放電現象と完全に同期する「ガンマ線フラッシュ(TGF)」と、稲妻とは同期せず、継続時間が数分間にも及ぶ「雷雲ガンマ線(ガンマ線グロー)」が知られている。
雷雲ガンマ線は、雲の中で雪崩的に増えた相対論的な電子が起こす特殊な放射(制動放射)と考えられている。しかし、雷雲中の「どこで」「どのように」電子が加速されているのかについては、まだ十分にわかっていない。その理由は、従来の観測装置ではガンマ線を検出できても、雲の中の位置まで特定することができなかったためだという。
そこで研究チームは、2019年からシンチレータを用いた予備測定に続き、2021年冬季から独自に開発したガンマ線可視化装置「コンプトンカメラ」を導入することにしたという。
ガンマ線も電磁波(光)の一種だが、粒子としての性質が強いため、レンズや反射鏡を使ってイメージングすることは不可能とされる。しかし、その粒子としての性質を逆に利用し、まったく異なる方法でイメージングを実現するのがコンプトンカメラだという。
ガンマ線が検出器に入射すると、エネルギーの一部を電子に渡し、自らは別な方向へ散乱される「コンプトン散乱」と呼ばれる反応を起こす。コンプトンカメラでは「散乱体」と「吸収体」で電子と散乱ガンマ線、両方の運動学を同時かつ正確に解くことで、入射ガンマ線の到来方向を決定する仕組みとされている。今回開発されたコンプトンカメラは、縦横の大きさ10cm×10cm、散乱体3mm厚、吸収体5mm厚となっている。
日本海側の雷は冬季に発生し、しかも地形的な理由などから、雲底が1km以下になるときもあるほど低いことが知られていることから、今回の研究ではコンプトンカメラを、日本海沿岸から約25kmの内陸に位置する新潟県十日町市松代にある生涯教育センターに設置して観測が行われた。
コンプトンカメラは、視野中心から±70度という広い視野を同時に俯瞰することができ、これにより、いつ、どこでガンマ線が発生しても、感度良く捉えることが可能だという。さらに観測サイトは標高約410mと雲底に近いため、より観測がしやすく、未知の現象の発見も期待された。