■原作は青春群像劇という印象を受けた

――「だってばよ」はナルトといえばという台詞ですが、そんな苦労があったんですね(笑)。では今作『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』の原作を初めて読んだ感想を教えてください。

松岡:BL作品だと伺っていましたが、恋愛にとどまらず登場人物たちの深い心情や葛藤を写実的に描いている作品だという印象を受けました。

中尾:ラブストーリーというよりも青春群像劇のような……猫ちゃん(猫屋敷)だけじゃなく、それぞれがこじらせている悩みが描かれていて、そんなキャラクターたちの互いを思いやる行動や台詞の優しさにただの恋愛漫画ではないなと思いました。

――それぞれの役柄の印象を教えてください。

松岡:人間は社会的な動物なので、誰かと関係し合わないと生きていけない以上「承認欲求」は皆が持っているものだと思います。猫屋敷くんはそれがちょっと人より強くて、理想と現実のギャップに戸惑っている若い人間。人生経験がまだあまりないからこそもがいて、精神的にも弱いところがあるんですけど、そこが人間っぽくて生々しいなと感じます。

■「同人作家」と「アイドル」の役作りは“マインド”から

――「同人作家」「壁サークル」という点ではどう役作りを行っていきましたか。

松岡:コミケが開催された日はTwitterで参加者の方の様子をウォッチしていました。ニッチなコスプレを楽しんでいる姿に、自分のしたいことを表現する場なんだなと改めて感じましたね。1つ印象的だったのは、準備期間に夏風邪を引いて新刊を発売できなかった壁サーの作家さんがいて。当日は手ぶらでスペースに行ったのに長蛇の列ができて、謝りながらサインを書いていたみたいなんです。コミケは作家さんに直接会って「生み出してくれてありがとう」って感謝を伝える場でもあるんだなと。「これがないと生きていけない」という方たちが集まっていて、好きを謳歌してる姿がかっこいいんですよね。そんな方々の矜持を学び、マインドを重視した役作りを心がけていました。

――自ら役作りのヒントを収集されていたんですね。

松岡:あとは俳優の仕事をしていると、人に何か影響を与えられた瞬間に幸せを感じるので、そんな思いもちょっと重ねたりして。ただ、漫画家という点で技術的な苦労もありました。

中尾:漫画の練習してたよね。

松岡:下書きやペン入れ、ベタを入れる練習を何時間もしました。不器用ながら1から2を作る作業はある程度できたのですが、クリエイティビティがないのか0から1を生み出す下書きのような作業は無理なんですよね。でも、どれだけ神経を尖らせてやっているかということが分かったので、猫屋敷が神経質になってイライラしてしまう気持ちも理解できたと思います。

――中尾さんは、一星をどんなキャラクターだと感じましたか。

中尾:猫ちゃんと一星は陰と陽のようですが、一星にとっては自分が持っていないものを持っている猫ちゃんがすごく輝いて見えるんです。博愛主義の一星は「皆が幸せになってほしい」と心から願っていて、そのためにいろんなことを勝手にやってしまうし、そうやって生きることが幸せだと信じている。普通の人の思考回路とはちょっと違うと思うんです。他人中心だから自分のことは無意識におざなりになっていて、明るくて楽しそうに見えるけど、すごく繊細な人物だと思いました。

――アイドルという役にはどう取り組まれましたか。

中尾:キラキラしていて笑顔を振りまいているのがアイドル……というような一般的なイメージはあると思うのですが、現実世界にはいろんなアイドルがいるし、性格は人それぞれ。だからアイドル役をやるというよりは、あくまで一星はどんな人間でなぜアイドルをやろうと思ったんだろうと、一星に向き合うことを大事にしていました。

――松岡さん同様、あくまで“マインド”からということですね。一星が所属するグループ、“シャニスマ”ことSHINY SMILEの4人はダンスレッスンや歌のレコーディングもしたんですよね。

中尾:皆で集まってダンスの練習をしたり歌を振り分けたり……丸1日汗だくになって、苦楽をともにしたら仲良くなるっていうじゃないですか。撮影が始まる前からシャニスマのメンバーとそんな時間を持てて本当に良かったと思います。練習の時点で、皆踊り方や歌い方にすでに役が乗っているのを感じました。無意識なのか、役と本人がそもそも似ているというキャスティングのすごさなのかは分からないんですけど(笑)。振り付けの先生も「俳優すごい!」「アイドルに見える!」って褒めてくださりました!

――最後に、お互いの注目ポイントを教えてください。

中尾:序盤と終盤での猫ちゃんの目の違いがすごく好きなんです。最初は闇に閉ざされていた猫ちゃんの目が、少しずつ心を開いていくにつれて目に光が宿っていく。ドラマを見てくださる方も、一緒に心が動いてくれたらうれしいです。

松岡:一星の魅力は初志貫徹。どこまでも正しいことを信じていて、それは実はすごく脆いんだけど、その脆さをどう扱っていくのか周りに教えられていくんです。僕は猫屋敷以上に、一星の成長が見どころだと思っているので注目してください!

中尾:お互いに成長していく物語なので、ぜひご覧ください!

■松岡広大
1997年8月9日生まれ、東京都出身。ドラマ『特命戦隊ゴーバスターズ』で俳優デビュー。2013年に初舞台『FROGS』出演を果たした後、ミュージカル『テニスの王子様』、『ライブ・スペクタクル NARUTO-ナルト-』で主人公うずまきナルト役を演じて人気を博した。主な出演作に、ドラマ『ベイビーステップ』、『ムチャブリ!わたしが社長になるなんて』、『ちょい釣りダンディ』、映画『引っ越し大名!』、『いなくなれ、群青』、ミュージカル『スリル・ミー』、『NEWSIES』など。今年俳優業10周年を迎え、アニバーサリーブック『再会』が発売中。10月には全国HMVにて対面イベントも開催。
■中尾暢樹
1996年11月27日生まれ、埼玉県出身。2016年2月『動物戦隊ジュウオウジャー』で風切大和/ジュウオウイーグル役で本格的な俳優デビュー。2021年からはライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」で主人公うずまきナルト役を演じている。11月には舞台「あいつが上手で下手が僕で」シーズン2に出演予定。代表作にドラマ『あなたの番です』、『カカフカカ-こじらせ大人のシェアハウス-』、『隕石家族』、映画『一礼して、キス』、『チア男子!!』、『10万分の1』、『大コメ騒動』、『クレイジーレイン』、ミュージカル『刀剣乱舞』、舞台「東京リベンジャーズ」など。