2011年の震災当時、大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』(NHK)に主演していた上野。「震災の直後に放送予定だった10話は、江(上野)の母親の鈴木保奈美さん演じるお市が、秀吉のところには行くくらいなら自害すると言って城と一緒に燃えて、それを見て三姉妹が『お母さーん!!』と泣き叫ぶシーンがあったんです。震災とシンクロしてしまい…。それが体験としてあるので、今思い出してもつらいです…」と、インタビュー中に涙があふれ出てきた。
当時抱いたのは、“無力感”だったという。
「テレビをつけると悲惨なニュースが流れている中で、自分はこんなきらびやかな衣装を着てお芝居をしていて良いのだろうかという気持ちもあった。大河を見てくださっていた方で、被災地に住んでいてテレビを流されてしまった方がいるという話を聞いて、何のために今、このお仕事をやるんだろうと迷ってしまって…。フィクションをやるくらいだったら、ボランティアに行ったほうがいいんじゃないかという思いもありました」
『江~姫たちの戦国~』では震災後、全国でチャリティートークショーを開催。上野は撮影の合間を縫って各地を飛び回り、募金の呼びかけを行ったが、そうした経験をへて、役者として物語を通じて伝えられることがあることにも気づいた。
「自分は無力で、何もできないんだなと感じることはあります。『グッド・ドクター』(フジテレビ)で小児外科医を演じても、目の前で子どもが倒れたときに応急処置ができるわけじゃない。資格を取って、毎日それを命がけでやっている人じゃないと助けることができない。でも、役を演じることで、そういう人たちの存在や感情を、手にとって分かるように伝えられる可能性がある。ファンの方に、ドラマを見て『お医者さんを目指してます』という学生さんも何人かいらっしゃったり、入院中の親御さんが楽しみにしてくれたりしたので、演じる意味があるのかなと思いました。『監察医 朝顔』でも、被災者の方や遺族の方の思いを伝えられると思うので、こうしてストーリーをもらって、その役の存在を伝えていく役目を頂けるのは、すごくありがたいです」
■悲しい気持ちを溶かして前に進んでいける優しいドラマ
改めて、『監察医 朝顔』という作品の魅力について聞くと、「震災もテーマにありますが、家族のドラマでもあり、誰もが抱えている悲しみを丁寧に描いていきます。キャッチーな魅力があるわけじゃなくて、すごく普通なんですけど、普通のことが尊いと感じさせてくれる作品。畳にちゃぶ台でご飯を食べていたり、前回から引き続き川の字で布団で寝ていたり。そんな懐かしい温かみのある万木家の風景が子供が増えたことで今回はパワーアップします」と紹介。
また今回は、太平洋戦争で亡くなったと思われる人の遺骨のDNA鑑定を、政府が全地域を対象に実施するようになった実際の社会の動きもストーリーに反映。「『自分の生きている間に知りたい』という遺族の方の抱える思いを、軽やかなタッチで、優しく、温かく伝えています」とした上で、「朝顔自身も等身大の気持ちでしっかり生きている姿をドラマの中に収めているので、誰もが共感して、深いところで癒やされ、孤独などの悲しい気持ちを溶かして前に進んでいけるような、優しいドラマだと思います」と語る。
さらに、「里美(中村千歳)という2歳の次女が出てくるので、さらににぎやかになった万木家の今が見られるのですが、意外と手一杯になって奮闘している朝顔の姿も見られます。そして、お父さんの病気(認知症)の進行が、1年半経ってどうなっているのか、それを朝顔がどう受け止めているのか。(夫の)桑原くん(風間俊介)が偉くなって肩書きが変わったところとかもコミカルに描いていて、爽やかな軽いテンポと、大事なところはしっかりまっすぐ伝えていくドラマでもあるので、それがギュッと詰まった2時間を最後まで楽しんでいただければと思います」と呼びかけた。
●上野樹里
1986年生まれ、兵庫県出身。03年、連続テレビ小説『てるてる家族』(NHK)で注目を集め、04年、映画『スウィングガールズ』で日本アカデミー賞新人俳優賞。その後、『のだめカンタービレ』『ラスト・フレンズ』『グッド・ドクター』(フジテレビ)、『江~姫たちの戦国~』(NHK)、『ウロボロス~この愛こそ、正義。』『テセウスの船』『持続可能な恋ですか? ~父と娘の結婚行進曲~』(TBS)などのドラマに出演。19年にスタートした『監察医 朝顔』(フジ)は、第1シーズン、第2シーズン、9月26日放送のスペシャルと人気シリーズに。