中部大学と東北大学は9月6日、これまで発生メカニズムも性質も未解明だった、ノコギリ歯状の表面構造を持つ高温基板に低温物体を1μm以下の距離まで近づけると生じる、物体と基板をスライドさせる「クヌッセン力」を分子シミュレーションによって再現することに成功し、両物体間の距離が、気体分子の平均自由行程の1/100から10倍までの間の大きさである場合にのみ、この力が顕著に現れることを明らかにしたと発表した。

また、分子の入・反射によって物体表面に伝えられる運動量に着目して、この力の発生メカニズムを理論的に解明することに成功したことも発表された。

同成果は、中部大工学部の米村茂教授、東北大 流体科学研究所のオティック・クリント・ジョン・コーテス大学院生らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学協会が刊行する気体・液体および複雑な流体・多層流体などのダイナミクスを扱う学術誌「Physics of Fluids」に掲載された。

クヌッセン力は温度差がある物体の間に働くが、熱流体力学では説明がつかないという。ただし、基板と接触していない物体との間に力が働くということは、両者に挟まれた空間にある気体分子が、一方からもう一方に運動量を伝えていることは間違いないと推測されている。

そこで研究チームは今回、高温基板と低温物体の間にある空気の気体分子の運動を追跡する分子シミュレーションを実施し、両物体の温度差により気体流れが両面間で誘起され、物体の表面で入・反射する気体分子によって、両物体をスライドさせる接線方向の力〈τKn〉が発生することを確かめることにしたという。

具体的には、平均自由行程λと高温基板と低温物体の間の距離gの比がクヌッセン数Kn=λg'と定義された。数値実験の結果、力〈τKn〉はクヌッセン数Knが0.1から100の間で顕著となり、クヌッセン数Knが2程度のとき最大となることが確認されたとする(クヌッセン数が1程度の大きさを持つ場合にのみ現れることから、この力はクヌッセン力と呼ばれているという)。

クヌッセン力〈τKn〉は最大で周囲の大気圧paveの1000分の1ほどの強さになるが、これは1cmの高さの水柱を水平方向に重力加速度で加速できる力であり、決して小さくないという。また、クヌッセン数が1程度の大きさを持つ場合にのみ、両物体の温度差により熱的に誘起される、熱流体力学では予測できない流れもあるという。