――哀須の部下役は中村優一さんと西銘駿さんでした。中村さんは『仮面ライダー電王』の仮面ライダーゼロノス/桜井侑斗の特徴的なセリフのパロディを連発されていましたが、一方の西銘さんは『仮面ライダーゴースト』の天空寺タケル風セリフではなく、周囲が凍えるくらい「寒いダジャレ」を飛ばすユニークな人物となりました。お2人の演出についてもお聞かせください。
せっかく2人に出演してもらうからには、印象に残るキャラ付けを……と考えた結果です。優一くんは侑斗の決めゼリフを繰り返し言わせてなんとかしましたが、一方で西銘くんに「命、冷やすぜ!」とか言わせるのはどうかな、やりすぎだって怒られるかもしれないと思ったんです。ただでさえ、巨大ロボットを出してしまってピリピリした雰囲気になりかねないですから(笑)。そうして、西銘くんには寒いダジャレで純烈のみんなを凍えさせる男にしたわけ。ホン打ちで本当につまらないダジャレを考えているとき、スタッフはみんな徹夜でハイになっているもんだからおかしくなっちゃって「これホントに面白いのかな~?」なんて言いながら、寒いギャグだからいいのかと思って採用していきました。
――哀須が操縦する「シロクマジン」の冷凍攻撃に立ち向かう銭湯巨神 純烈王の戦いがクライマックスを飾ります。ここは佛田監督率いる特撮研究所スタッフのお家芸というべき、巨大キャラクター同士が持てる武器を総動員しての激突が見られました。巨大戦についてのお話をお願いします。
東京では昨年閉館してしまった温泉施設「東京お台場 大江戸温泉物語」の地下から純烈王が出てくる設定にしたので、レインボーブリッジを合成で入れ込んだりして、湾岸の雰囲気を出してみようと試みました。巨大戦を撮っているとき楽しかったのは、シロクマジンのために作った豊富なギミックをほとんど使えたことです。ボディにしまいこんだ「冷蔵庫爆弾」や左腕のドリル、頭に備えたかき氷器のグルグル回すレバーもちゃんと回しました。あのレバーはシロクマジン的には何の役にも立っていないはずですが、野中さんがデザイン段階でこういうのをつけてくれたのが面白かったから。グルグル回すと口から粉砕された氷を吐き出すとか、合成で入れたりもしました。前作の「スーパー銭湯機」もギミック満載だったけどぜんぜん使えなかったから、シロクマジンで雪辱を晴らすことができました。
――純烈ジャーのアクションシーンでは、変身前の4人、そして女神たちがパッパッと切り替わり、スピーディかつ力強い立ち回りを披露されました。
ああいったところは、アクション監督の竹田道弘さんのアイデアが大きいです。竹田さんは「いろんなキャラが入り混じってのアクションを軽快な歌に乗せてやりたい」とお話ししていました。小林綾子さんが棒で立ちまわったり、中島ゆたかさんに銃を撃たせたり、すごいことやってますよね。しのへけい子さんはかつてJAC(現JAE)にいたから、アクションはお手のもので頼もしかった。岡元次郎さんの同期なんですよ。
――純烈ジャーと女神の絆と共に、白川さんの新しいパートナーとして活躍した長井短さん演じる恵美梨の「無償の愛」も心を打ちました。長井さん起用のポイントは何だったのですか。
テレビの深夜ドラマにその頃よく出てたんです。面白い女優さんだなって思って、短ちゃんにぜひ恵美梨を演じてもらいたいとオファーさせていただきました。とぼけた演技と真剣な演技のバランスが抜群でした。
――白川さん、ふせさん、長井さんが敵の爆弾攻撃から逃げるという、素人目にもこれは危険だなと思うようなスリリングなシーンもありました。
そこは僕が意識的に入れ込んだ場面です。ただ敵から追われて逃げるんじゃなくて、長澤奈央ちゃん演じる冬美が何故か手榴弾を投げ、大爆発が彼らを襲うという見せ場を作っておこうとしたんです。なにしろ、このシーンの直後とんでもなく頼もしい「助っ人」が来ますから、ピンチのシーンを作っておかなければならないんです。
――助っ人とは、本作の特別ゲスト・八代亜紀さんのことですね。八代さんといえばシニア層に絶大な人気を誇る演歌界の大御所。出演の経緯を聞かせていただけますか。
もともと僕は、今回の作品がどんな話になろうとも「トラック運転手の八代さんが純烈ジャーの危機を『乗りな!』とトラックに乗せて助ける」というシチュエーションだけは、ずっとやりたいと思っていたんです。
――八代さんも出演された『トラック野郎』シリーズで有名な「デコトラ」も登場しています。まさに『純烈ジャー』シリーズは令和に甦った「鈴木則文監督作品」の趣がありますね。
『トラック野郎』で活躍されていた「全国哥麿会」のご協力で、本物のデコトラを撮影に使わせていただきました。映画の中で、八代さんが運転しているトラックとすれ違う別のトラックが一瞬映りますが、あれは『トラック野郎』で菅原文太さん演じる一番星(星桃次郎)が乗っていた本物の「一番星号」なんです。八代さんの運転シーンでは、参考のため『トラック野郎 度胸一番星』(1977年)をスマホで観ていたのですが、八代さんの表情だとか、運転席にいるアングルとか、当時とまったく変わらなくて驚きました。実物と当時の画面を交互に見比べて「同じだ!」と思っていました(笑)。
――白川さんと恵美梨(長井さん)の危機を救ったカッコいい"女トラッカー"だった八代さんが、クライマックスで再登場するとは意外でした。しかもその「スケールの大きさ」にも驚かされました。あそこの八代さん活躍シーンについて聞かせてください。
八代さんは当初の考えでは、純烈ジャーを助けて風のように去っていく、まさに「特別ゲスト」的な出演だったんです。でも、いろいろとホンが固まってきて、打ち合わせを深夜から明け方にかけて行っているうち、「八代さんの出番がこれだけじゃもったいない。クライマックスに向け、もう一つ見せ場を設けたい」と思い、僕が「巨大化させちゃおう!」と言い出した。そして「八代さんにここで一曲、歌ってもらおう」と久保裕章さんが言い始め、ホンをバババッと書き出した。ただいきなり出てくるだけじゃ面白くないから、シロクマジンが純烈王を氷漬けにして、哀須が勝利の美酒を飲もうとしている直後、純烈王を救いに八代さんがやってくるという展開を久保さんが考えたんです。瞬間的にパッと湧いてきたアイデアでした。
――打ち合わせ中のみなさんが寝不足でもうろうとしていたからこそ生まれたアイデアだったのですか。もしみなさんがちゃんと寝ていたら、ひょっとするとぜんぜん違った映画になっていたかもしれません。
そうそう(笑)。八代さんはプロデューサーの中野さんから話を聞いていて、出て頂けるということだけは事前にわかっていました。女トラッカーに関してはご本人もノリノリらしい。でも巨大化のことは話していないので、改めてご依頼させていただきました。僕が直接「大きくなっていただけますか。できれば、『舟唄』も歌いながら……」と超ドキドキしながらお願いしたところ、一瞬間があってクスッと笑われて「あら、面白そうじゃない!」とご快諾をいただきました。この一瞬の間が僕的に長く感じましたね~(笑)
――八代さんは特撮の現場に来られたとき、どんな感じでいらっしゃったのですか。
特撮のセットって埃っぽくて、しかも八代さんはご自前のドレスを着て入られていますから、僕たちは「八代さんの衣装を汚しちゃいけない」とすごく緊張していました。八代さんはプレビュー画面を観て「私、怪獣! 怪獣!」ってすごく喜んでいて、その姿を見たとき緊張が少しほぐれました。純烈王に入って演技をしていた藤田洋平くんなんて、後から聞いたら八代さんと寄り添うシーンの撮影中はガッチガチに緊張してたらしいです。八代さんは藤田くんのことをすごく気にかけていて「(ロボットのスーツは)暑くない?」と心配してくださったそうです。
――酒井さんは前作のとき「純烈ジャーを年1回のペースで作りたい。特撮界の寅さん(男はつらいよ)を目指したい」と抱負を語っていましたが、3作目の可能性もありますか?
それにはまず今回の映画がヒットしてくれないと、次のことについては何とも言えないですね。趣味で作ってるようにしか見えない映画ですけど、これ仕事ですから!(一同爆笑)
――佛田監督から『スーパー戦闘 純烈ジャー 追い焚き☆御免』の注目ポイントについてひと言お願いします。
純烈の4人による歌とダンス、そしてシロクマジンと銭湯巨神 純烈王の巨大戦にご注目ください。そして何より、「舟唄」を歌いながら巨大化する八代亜紀さん!これが最大の見どころです。「歌謡特撮」映画の集大成というべき作品に仕上がっています!
――佛田監督、ならびに特撮研究所が製作される特撮映画をこれからもどんどん観てみたいです。今後の構想などがあれば、ぜひ教えてください。
『宇宙からのメッセージ』(1978年/監督:深作欣二、特撮監督:矢島信男)のリメイクなんて、ぜひやってみたいですね。世界観をつなげた「前日談」ストーリーにも心惹かれます。千葉真一さんが演じた「ハンス王子」の若き日の物語なんてどうですか(笑)。チャンスがあれば、また特撮娯楽映画に挑みたいと思っています。まずは『スーパー戦闘 純烈ジャー 追い焚き☆御免』をたくさんの人たちに観ていただきたいです。
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