すばる望遠鏡(国立天文台)と一関工業高等専門学校(一関高専)は8月31日、同望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)」を用いて、天の川銀河と同程度の質量を持つ、9つの銀河の周囲を撮像した結果、93個の「衛星銀河(伴銀河)」の候補天体を発見、それらの衛星銀河の数や分布などの比較を行ったところ、天の川銀河の衛星銀河だけが分布に偏りがあることが発見されたことを発表した。
同成果は、国立天文台の梨本真志特任研究員(現・東京大学 学術振興会特別研究員)、一関高専 総合科学自然科学領域の林航平講師らが参加する共同研究チームによるもの。詳細は、米天文学専門誌「The Astronomical Jounal」に掲載された。
天の川銀河は宇宙でも大型の銀河であり、局所銀河群の中ではアンドロメダ銀河に次いで2番目に大きいとされている。このような大きな銀河の周囲には、大マゼラン雲や小マゼラン雲のように、重力によってつながった小さな衛星銀河が存在する。天の川銀河の衛星銀河は現在までに50個以上検出されているが、その数は理論的な予想よりも1桁以上少なく、またその空間分布は等方的ではなく偏りがあるという。
これらの問題は、現在広く支持されている標準的な宇宙論モデルの“ほつれ”の1つと見なされ、理論と観測のギャップを埋めるべく、多くの科学者が研究を進めているところだという。
この衛星銀河の数の問題は宇宙に普遍的なものなのか、それとも天の川銀河に特有の問題なのかはこれまで明らかになっておらず、宇宙の普遍的な理解を深めるには、天の川銀河以外の大型銀河にも目を向けて衛星銀河をたくさん調べることが重要だという。そこで研究チームは今回、HSCを用いて、約5~8000万光年離れた、天の川銀河と同程度の質量を持つ9つの銀河について、衛星銀河が分布する領域をくまなく観測することにしたという。
実際の宇宙は当然ながら3次元空間であり奥行きが存在するが、どんなに優れた観測機器であっても、撮影画像は2次元でしかないため、対象の大型銀河の周囲には、実際に重力で結びついた衛星銀河と、実際には離れていて重力的な束縛のない無関係の銀河が背景として写り込んでしまう。そこでHSCによる高感度画像を詳細に解析し、肝心の衛星銀河と、背景の銀河とを区別する作業が行われた。その結果、暗く小さな衛星銀河の候補となる93天体を検出することに成功したという。