最初の質問は、新しい「マルチノイズセンサーテクノロジー」について。先代のWH-1000XM4では、環境ノイズを捕捉するマイク周辺の技術として「デュアルノイズセンサーテクノロジー」——センサー(マイク)で集音したノイズと音楽の信号をすべてデジタル化、逆位相の音を高精度に生成するソニーの独自技術——が採用されていましたが、「マルチ」と「デュアル」で何がどう変わったのでしょう?

  • 計8個のマイクを使ったマルチノイズセンサーテクノロジーを採用

その答えは「より高精度なセンシングの実現」だそう。「具体的には、従来より高い周波数における集音性が向上しています。イヤーカップの内と外のノイズをより広く、かつ高精度に捉えることができるようになりました」(ソニー)とのこと。従来のマイク2基だったものが4基に増えたからマルチ、という単純な話ではないようです。

  • WH-1000XM5のノイズキャンセリング機能を説明する若林氏

それにしても、なぜイヤーカップの内側に1基(フィードバックマイク×1)、外側に3基(フィードフォワードマイク×3)というマイク配置にしたのでしょう。フィードバックマイクを2基使うより、そのぶんフィードフォワードマイクを増やしたほうが効果が大きいということでしょうか?

この問いに対する回答は「ドライバーユニットとの相性で決めました」とのこと。マイク配置の最適化についてはいろいろな手法がありますが……と前置きしたうえで、「WH-1000XM5に関してはフィードフォワードマイクを3基配置することが最適解でした」(同)というから、微調整/チューニングを繰り返したうえでの結論ということなのでしょう。

強風のとき気になる風ノイズも、流体シミュレーションを繰り返し、ボディ形状の調整や3基のフィードフォワードマイクそれぞれに特殊な機構を設けるなどして、低減効果を高めていると話していました。

  • WH-1000XM5のドライバーユニット

ノイズキャンセリング全体の“効き”に関しては、「より高い周波数のノイズ低減を行えるようになりました」(同)とのこと。一般的にNCは振動音・エンジン音など周波数帯が低いノイズの低減を得意としますが、WH-1000XM5では中高音域のNC性能が向上、人の声など日常的なノイズの低減が改善されているそう。

それらNC性能の向上に大きく貢献していると思われるのが、新たに追加された統合プロセッサ「V1」です。WH-1000XM3以来の「QN1」に追加される形で搭載されているため、その使い分けが気になるところですが、「ノイズキャンセリング処理とD/A(デジタル/アナログ)変換はQN1が担っています」(同)。一方で無線通信やマイクの処理などV1がカバーする範囲は広く、高い周波数におけるNCの効果アップにも寄与しているそうです。

  • WH-1000XM5に搭載している統合プロセッサ「V1」。完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000XM4」で初めて採用し、1000Xシリーズのヘッドホンにも導入したかたちだ

  • 高音質ノイズキャンセリングプロセッサ「QN1」も従来機種から引き続き搭載している

ちなみに、姉妹機ともいえる関係の完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000XM4」にも同じV1が搭載されていますが、WH-1000XM5とは役割が異なるのだそう。「WF-1000XM4ではノイズキャンセリングからD/A変換まで、V1単独でひととおりの処理を行っています」(同)ということで、V1は専用チップというよりはFPGAのようなプログラマブルなSoCと理解したほうがよさそうです。

  • WH-1000XM5(左)と、WH-1000XM4(中央)を並べてみると、デザインや形状の違いがよく分かる。今回は最上位ウォークマン「NW-WM1ZM2」(右)と組み合わせて試聴する