芸人として活躍するかたわら、俳優や作家、脚本家、映画監督などマルチな活動を見せている劇団ひとり。そんな彼が、日本テレビ系大型特番『24時間テレビ45』(27日18:30~)のスペシャルドラマ『無言館』(同21:00頃~)の監督・脚本を務めている。

近年、演者が監督業に挑む事例が増加しているが、北野武ほどのヒット監督になる例は少なく、そこに“本業監督”の高いハードルが存在することは否めない。そんな中、忌たんのない意見が飛び交うネット言説において「劇団ひとりの作品は面白い」などの声があがる。

なぜ、劇団ひとりの作品は一般視聴者から“認められる”のか。彼の監督としてのこだわりに迫ってみた――。

  • 24時間テレビスペシャルドラマ『無言館』監督・脚本の劇団ひとり

    24時間テレビスペシャルドラマ『無言館』監督・脚本の劇団ひとり

■“霧で撮影不能”のアクシデントが、思わぬ名場面を生んだ

劇団ひとりと言えば、小説『陰日向に咲く』、『青天の霹靂』(共に幻冬舎刊)のほか、映画『青天の霹靂』では監督・脚本も担当。こちらも監督・脚本を務めた『浅草キッド』(Netflix)のヒットも記憶に新しい。『無言館』では、テレビで初の監督兼脚本に挑戦。クランクアップ直後に直撃すると「仕方がないことですが、うまくいった部分もそうでなかった部分もある。それをどう編集でリカバリーできるかが課題」と真剣な表情で語った。

ドラマ『無言館』は、戦争で亡くなった画学生(=美術学校の学生)の作品を集めた実在する美術館「無言館」(長野・上田市)設立のために全国を駆け巡った男の物語で、実話をもとに描く感動のヒューマンドラマ。「無言館」の開館に向けて立ち上がる主人公・窪島誠一郎を浅野忠信が、窪島とバディを組んで絵を集める洋画家・野見山暁治を寺尾聰が好演している。

「うまくいった部分で言えば、『無言館』がオープンした日に、美術館内に光が差し込む場面は美しく撮影できました。また、窪島さんと野見山さんが旅の途中に寄り道をするシーンでは、ロケ当日に霧が原因で撮影不能に。ですが、たまたま近くに霧のない場所があり、そこで撮影しました。野見山さんが景色をデッサンしながらその横で窪島さんが靴を磨くワンカットですが、何か物語を象徴するかのようなシーンになったんですね。…現場って本当に何が起こるか分からない。誰も計算してない素晴らしいワンカットが撮影できました」

キャストは浅野、寺尾のほか、大地康雄、笹野高史、でんでん、由紀さおり、檀ふみら大御所ぞろい。「ベテランで埋め尽くされたキャスティングで、こんな新人監督の指示を聞いてもらえるのか。生意気だと怒られるんじゃないか。そんな不安もありましたが、皆さま、懐の深い方ばかりで。やりづらさは微塵(みじん)も感じませんでした」と安堵の表情を見せる。

  • 寺尾聰(左)と浅野忠信 (C)NTV

■影響を受けたのは山田洋次「ちゃんと人間を描きたい」

以前より俳優や芸人、アーティストが監督業を務めることはあったが、昨今はそれが増加している傾向がある。山田孝之らが発起人を務めた短編映画製作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS』では、山田をはじめ、阿部進之介、安藤政信、志尊淳、柴咲コウ、水川あさみ、三吉彩花、ムロツヨシらが映画監督に初挑戦。

また、WOWOW開局30周年を記念して企画された『アクターズ・ショート・フィルム』(2020年)では、津田健次郎、柄本佑、森山未來、磯村勇斗らが短編映画監督に挑戦。今年2月の第2弾では、永山瑛太、千葉雄大、前田敦子らが監督を務めた作品を発表し、全作品が「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2022(SSFF & ASIA 2022)」ジャパン部門にノミネートされている。

俳優から監督に転身して成功を収めた例として、故・伊丹十三さんの名は外せないが、“演者”と“監督”の二足のわらじで活躍している劇団ひとりらの例に関しては、「そのレールを敷いてくれたのは、やはり(北野)武さんだと思います」と分析。劇団ひとり自身もその作品は当然、網羅している。

その上で、自身が影響を受けた監督としては山田洋次を挙げた。

「『男はつらいよ』は48作、もう何周したか分からないぐらい観ましたし、影響されています。やっぱ人間の描き方が素晴らしですね。正直『男はつらいよ』は寅さんが旅に出て恋してフラれての繰り返し。それでも観ていられるのは、キャラクターたちの人間性だと思うんです」

血が通ったキャラクターがスクリーン上で様々な人間模様を繰り広げる同作。「そうなったら、もう勝ちですよ。だってそのキャラが好きだから、そのキャラの場面は全部見たいわけです。キャラにそれぞれ魅力があれば何回でも観られる。どんでん返しがある凝ったストーリーの作品も面白いけど、2回目観るかと言えば分からないですよね。人はより強い刺激を求めますから。だから僕はどちらかと言えば、ちゃんと人間を描きたい。今後もそうしていくつもりです」