今でこそ、恒例の音楽フェスとなった『イナズマロック フェス』だが、この立ち上げも「形にしたい」「とにかく挑戦する」という精神があったからこそ、行うことができた。
「滋賀県でやるフェスなんて、注目していただける媒体も少ないし、出演するアーティストの方は、僕が何とか直接つてを使ってお願いするみたいな形で。もうみんな手弁当で、最初の3年目くらいまでは、普段の通常の活動が『イナズマ―』のせいでできなくなるくらい(笑)、スタッフも『何のために働いてるんだろう…』って分からなくなるくらい、本当に大変だったんです。成果も出ず、地域の方に、『こんなところでやったって根付かないよ』と言われることもあったのですが、こうやって続けられてきたのは、本当にたくさんの方から応援の言葉を頂いて、支えてくれたおかげなんです」
だが、現実として感謝の言葉だけで続けることはできない。軌道に乗せていく中で気づいたのは、ビジネスとして成立させることだった。
「この15年続けてこられたのは、もちろん浮き沈みもありますが、支えてくれる皆さんにきちんと分配できて、そこで得た収益を地元に還元できて、それによって地域の皆さんが潤うということがあるから理解していただけて、また協力者が増えてくるんです。だから、エンタテインメントという文脈だけでなく、社会にどう寄り添って、その中でどんなことが我々にできるのかというのを考えていくところから、次のビジネスチャンスが生まれてくるのではないかと改めて思いました」
■県知事や参議院議員であるよりも…
様々なジャンルで活動することについて、日本でももっと多くの人が行っていくべきという思いがある。
「海外だと、有名俳優が映画プロダクションを持ったり、監督もやってプロデュースしたりというのが当たり前にありますよね。日本は職人気質で1つのものをやり続けるという美学があると思いますが、せっかくだから、自分の得た知見をいろんな形で活用していくチャンスがある人は、それを使っていくべきだと思うんです。僕は20代の後半から会社を持っていろいろやらせていただいてますが、知らないことは知らないですし、分からないことは分からないとはっきりお伝えすることで、自分のできることや組める相手が見つかってくるんです。これからも臆せず取り組み続ける中で、僕にしかできないことや僕にしか見られない景色を、たくさんお届けできたらいいなと思っています」
冗談も含め、「滋賀県知事」や「参議院議員」として活動しないのかと聞かれる場面が多い西川だが、アーティストという立場に軸足を置く現在のポジションだからこそ、動きやすい面もあるようだ。そこから、どんな人でも地域や社会貢献の活動ができるはずだと訴える。
「今のスタンスを持ちつつも、これからは社会と関わりを持つことがもっともっと求められていくと思うし、今後どんどん超高齢化社会に向かっていくとなると、その社会を回していくのはこれからの世代の皆さんが担うわけですから。僕らの世代は、そういう若い世代に少しでも負担をかけないようにして良いものを残してあげたいし、これからもっと増えていく高齢者である先輩方のちょうど狭間にいるので、両方のインターフェースになって、最終的にみんなが手を取り合えるようにつないでいく作業が、我々の世代に課せられた任務なのかなと思っています」
■「目標を決めずに、ひたすら皆さんに期待に応えていく」
これまでを振り返り、「本当にありがたいことに、それぞれのタイミングで『これやってみない?』『これやってみてよ』と言ってくれる人が現れて、それを断りきれずに『分かりました。やってみます』と応え続けた結果、こうなってるんです」と語る西川。
それだけに、「たぶんこの先も、いろんな場面でそういうふうに言っていただける方が出てきて、それに応えてる間に、また全然違った場所にたどり着いているような気がします。だから、僕自身は目標を決めずに、ひたすら皆さんに期待に応えていくことなのかなと思っています」と先を見据え、「今できること、貢献できるというのも大いにあると思うので、そのカードが切れる間はまだまだ切り続けて、しっかり皆さんに貢献していきたいなと思っています」と力強く語ってくれた。
●西川貴教
1970年生まれ、滋賀県出身。96年にT.M.Revolutionとして活動を開始し、「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」「INVOKE」などがヒット。アーティスト活動のほか、『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)でラジオパーソナリティー、連続テレビ小説『スカーレット』(NHK)で俳優、『オトラクション』(TBS)でバラエティMCと、幅広く活躍する。08年に初代「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、県初の大型野外ロックフェス『イナズマロック フェス』を主催、地元自治体の協力のもと、毎年滋賀県で開催している(21年のみ中止)。令和2年度滋賀県文化功労賞受賞。22年3月から『西川貴教のバーチャル知事』(BSJapanext)がスタートした。