NHKが運営するサイト「自殺と向き合う」に寄せられた投稿や、当事者への取材を重ねた後藤怜亜ディレクターと脚本家・加藤拓也がタッグを組んだ特集ドラマ『ももさんと7人のパパゲーノ』が、本日8月20日(NHK総合 23:00~24:00)に放送される。死にたい気持ちを抱えながら、死ぬ以外の選択肢を選んでいる人=パパゲーノをテーマに、オリジナル脚本で挑んだ本作。非常にセンシティブな事象をいま取り上げる意図とは――演出の後藤氏、脚本家の加藤氏が胸の内を語った。
『ももさんと7人のパパゲーノ』は、友達もいるし、少し離れたところに住む両親との関係性も問題なく、さらに彼氏もいるという“一般的”な日々のなか、ある日自分が“死にたい”と気づいてしまった一人の女性もも(伊藤沙莉)が、死にたい気持ちを抱えながらも生きている人=パパゲーノたちを訪ねて旅を重ねるなか“死ぬ以外”の選択肢を知っていく物語。
企画を立案した後藤氏は「普段は福祉の番組を担当する部署でディレクターをしているのですが、同部署では自殺対策基本法が制定された翌々年(2008年)から『自殺と向き合う』というポータルサイトを運営しています。そこで“死にたい”“生きているのがつらい”という気持ちを寄せてくださった方へ取材をしているのですが、そのなかでノンフィクションやドキュメンタリーでは描けない部分がたくさんあるなと実感し、ドラマとして伝えられることはないのかと思って企画しました」と意図を明かす。
非常にセンシティブな問題を扱うドラマ。後藤氏が強く意識したのが「死にたいと思う気持ち」を否定しないこと。「当事者の方とお話しするなかで『自殺は絶対ダメ』と否定されることがもっともつらく、より死にたいという気持ちになってしまうことを強く感じました。そう思うことを否定しないドラマを作ることが大きな意図です」
こうした後藤氏の思いに対して加藤氏も「僕も監督と初めてお会いしたとき『自殺を肯定することも否定することもできないので、そのような意図でしたら書けるかもしれません』とお伝えしました」と語ると、完成した作品に対して「この作品はどうにもならないことを無理やり解決する作品ではなく、そのままでもよいということを伝えているドラマです」と脚本意図を述べる。
近年、自死を取り上げるメディアの対応が問題提起されることが多い。実際、こうした題材は諸刃の剣になってしまう危険性もある。後藤氏は「もちろん非常にセンシティブな題材ではあります」と前置きすると「日本の自殺対策の歴史のなかで、自殺に対してタブー視するという姿勢を貫くことによって、結果的に止め切れていなかったり、語る場がなくなってしまったりする事実があるとされています」と現状を説明する。
これまであった悪循環に変化をもたらすために制作された本作。後藤氏は「自殺に対する表現はWHOのガイドラインなどをしっかり遵守しながら、死にたいという気持ちを否定しない物語をどう構築するかは徹底的に議論しました」と語る。こうした物語を紡ぎあげるには、加藤氏の脚本が必要だったという。
「これまで加藤さんがお作りになっている舞台や映像を拝見していて『こういう考え方ってダメだよね』とか『こういう人って良くない』という既成概念みたいなものを超える、人肌のある物語やセリフをお書きになる方だなと思っていました。その意味でこのテーマにはぴったりだなと感じ、ぜひ加藤さんにお願いしたいと思ったんです」
そんな加藤氏もセンシティブな題材であることは強く意識していたという。「表現、セリフの一つがトリガーになってしまう危険性はあると思っていましたので、非常に気を使いました。後藤さんにもしっかりと確認しながら進めました。この作品は何をどうしてほしいというメッセージのあるものではないのですが、やっぱり『自殺と向き合う』ということは大切なので」