●生きるために良い想像力を働かせる

──「誰かのためにエンタメを作る」末原さん。ことしの8月には舞台公演『瓶詰めの海は寝室でリュズタンの夢をうたった』が上演されます。こちらは2021年に上演された同名舞台公演の再演になりますね。

シェイクスピアや近松門左衛門の作品って、何百年も演じられ続けているじゃないですか。エンタメはその場で楽しませるのも大事ですが、僕は彼らのような、時代を超えてどの世代でも何かを感じられる物語を作りたいと、前々から思っていたんです。昨年、上演を終えた段階で、この作品なら再演し続けられる、この作品を夏の風物詩にしたいと強く思いました。だから、ことしもやってみようと思ったんです。まだ気が早いですが、来年も再来年もやりたいですね(笑)。

──「夏に上演するならこれ」という作品になればという思いがあった。

そうですね。これは個人的な話なのですが、本作は僕の舞台公演の音楽を作り続けてくれた父が亡くなった直後に執筆したんです。父は余命宣告もされているなかでも、芝居を楽しみにしてくれていました。今回の作品には、余命宣告の期間を過ぎてからも執念で生き続けた父のことを考えながら、命や生きることについて紡ぎ出した物語です。そういう背景も相まって、僕のなかでも大切にしたいと思える作品になっています。

──お父さんへの思いもこもった作品。

そうですね。物語のなかにも、自分と父の思い出を混ぜ込ませている部分もあります。

──改めて、作品のテーマを教えてください.

人間、いつかは命が尽きます。ただ、「人生悲しかったな」で死んじゃダメ。それで死んで欲しくはないです。すべての物語にはオチが付いていますし、夢は最後には覚めますが、それと不幸であることは、何の関連もありません。この物語は老人が自害しようとするところから始まります。僕たちの想像力っていうのは平気で僕らを食い尽くして、追い込んでしまいます。一方で、よい想像力はいかなる場面でさえも輝きで満たすことができるんですよ。

──想像力と一言に言っても、それが必ずしも良い方向に働くとは限らない。

どっちのイマジネーションなのかによって、その人の世界観が変わってしまうという怖さがあると思います。それでも、良い想像力を働かせて、生きることが大事なんじゃないかな。本作は、それを伝えたいと思って作った作品です。

●物語の完成は参加者に委ねたい

──今回は2021年の上演時とは演出が異なるとお聞きしました。お話できる範囲で、どのように変わっているか教えてください。

今回は、日毎に組み合わせが変わる役柄固定のミックスキャストシステムで行います。主人公のトノキヨは、男女Wキャスト。性別が変わることでどんな変化があって、何が変わらないのかを感じてください。また、絵作りにもこだわっています。「おぼんろ」の演劇を「飛び出す絵の中に飛び込んだみたいだ」と表現してくださる方がいらっしゃるのですが、実際にそういう見せ方ができないかなと思い、今回チャレンジしてみました。

──視覚的に楽しめる要素がプラスされている。

そうですね。そのうえでこだわっているのが、「自分たちで作ってみる」ということ。外注すればとても綺麗なものができあがるかもしれませんが、自分で作業したときできる歪みや歪が、指紋や手相みたいな「オリジナリティ」に繋がると思うんです。自分でも見たことがない景色を見たいという気持ちで、絵作りにも力を入れていますね。

──本作は「小学生の夏休みの思い出」が物語のキーとなっています。末原さんは小学生の頃、どんな夏休みを過ごしていましたか?

虫が好きだったので、父と一緒に虫捕りに行ったり、木にハチミツを塗りに行ったりしていました。用もないのに図書室のなかに潜り込むなんてこともしていましたね。いちばん特別だったことは、鹿児島のおじいちゃんの家に帰省したことかな。大自然のなかで木を削ったり、色々なことを教えてもらったりするなかで想像力が育まれた気がします。

──最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。

ここまで色々なお話をしてきましたが、この物語がどういう完成を迎えるのかは、参加してくださる方に委ねたいと思います。主人公はトノキヨではなく、お越しくださる「あなた」。僕は花火大会の主役は花火じゃなくて、それを見た人だと思うんです。誰と花火を見て、何を感じて、何を語ったのかが大事なんじゃないかな。こういうことを物語られるために、物語はあると思います。自分のいちばん大事な思いをかけて作った物語を、プレゼントとして贈らせてください。この舞台公演が、誰かにとっての特別な夏休み、忘れられない瞬間、毎日を過ごすお守りのようなものになればいいな。

末原拓馬(すえはらたくま)。7月8日生まれ。鹿児島県出身。劇団おぼんろ主宰。俳優としてだけでなく、脚本家・演出家としても活動。音楽家の両親を持ち、幼少期から音楽の手ほどきを受ける。劇団「おぼんろ」は、末原拓馬の創り出す物語を全身全霊で語り部たちが紡ぐ劇団。2022年8月18日より行われる公演『瓶詰めの海は寝室でリュズタンの夢をうたった』は、小説も2022年8月11日に出版された。

●劇団おぼんろ 第21回本公演『瓶詰めの海は寝室でリュズタンの夢をうたった』

【日程】2022年8月18日~8月28日※全19ステージ
【場所】Mixalive TOKYO Theater Mixa
【チケット価格】
一般チケット:7,800円(税込)
2階席チケット:4,600円(税込)
※その他、特別付チケットあり

オンライン生配信について
【配信日】
8月24日(水) 13時の回<出演者:さひがし、末原、日向野、瀬戸、大久保>
8月24日(水) 19時の回<わかばやし、橋本、高橋、塩崎、二ノ宮>
【配信プラットフォーム】
uP!!!、TELASA
【配信チケット料金】
配信限定特典付きプレミアムチケット:5000円(税込)
一般チケット:3500円(税込)
※その他、各キャストの出演日、チケット情報の詳細などは「おぼんろ」公式サイトにて