廃工場での公演開催や、参加者が場内を歩きながら分岐していく物語を楽しむ演劇などを展開する劇団「おぼんろ」。2020年4月に「緊急事態宣言」が発出された際、「おぼんろ」の主宰・末原拓馬に、“エンターテイメントのチカラ”についての話を聞いた。会場に観客を招かずに音と語りを頼りに想像力で楽しむ「ノーアングル生上演」を行うことを「お客さんと待ち合わせしているから」「楽しむことは許されるんだよと伝えたかった」と言葉にしていた末原。あれから2年が経ち、未だにコロナ禍が続くいま、彼が“エンターテイメント”について思うこととは。
2022年8月18日より行われる舞台公演『瓶詰めの海は寝室でリュズタンの夢をうたった』。今回の舞台への思いと合わせて、“エンターテイメント”についてのインタビューが到着した。
●作り手が「最低限」で作ろうとしている
──あれから2年以上が経ちました。末原さんはエンタメを提供し続けていらっしゃいますが、業界全体のおかれている状況は変化したと感じていますか?
変わった……というよりも、新しいスタイルが固定化したと感じています。イベントの配信を行うことがベーシックになりましたし、公演が延期・中止するのが「仕方ない」という時代にもなりましたよね。その結果、配信イベントが多くなり過ぎて、お客さんが見切れないという状況にもなっていると思います。
──作り手だけでなく、受け取る側の意識も変化したと感じている。
感じていますね。キャストの降板に対してこんなに寛容な時代が来るとは思ってもいませんでした。また、舞台関係の話でいえば、ほとんどの団体・公演が以前よりも来場者数が減っています。一方で、父の友人であるミュージシャンの方からは、何十年も活動している大御所アーティストのライブは完売、満席状態だと聞いています。きっと今は、「本当に大事なものだけしか見ない」という意識へと変化しているんじゃないかな。心の支えになっていたエンタメだけは絶対に見る、絶対に行くという方が、少なからずいらっしゃるんだと思います。
──見たい・行きたいイベントを以前よりもお客さんが「選ぶ」時代になった。
特に「行きたいイベント」は選ぶ時代になったんじゃないかな。以前は「暇だし、ちょっと気になるから見に行ってみようかな」と気軽に見に行く方もいらっしゃいましたが、今はかなり減ったと思います。新型コロナウイルス感染症に感染してしまい、本当に行きたい公演に行けなくなるのは嫌だから行くイベントを選んでいるという声も、実際に聞いたことがあります。
──2年前と比べてエンタメ業界が置かれている状況はよくなっている、とは言えないかもしれません。
どうなんでしょうね。本当は「良くなっています」と言いたかったのですが、実際はそうでもないよな、と。これは良い・悪いという話ではなりませんが、新型コロナウイルス感染症の感染が拡がる少し前から、ミニマムコミュニティを囲い込むエンタメや、エンタメを応援産業にするというビジネスモデルが出てきましたよね。それはインターネット文化と相性がよくて、ひとつの成功例にもなっているとは思います。ただそれによって、リスクが大きいイベントを作る方が少なくなっている気もします。
──現状を踏まえると、例えば、延期・中止できる規模の企画にする、とか。
そういう側面はあるかも。「あぁ、延期になっちゃったね。ドンマイ」というスケールのものが増えた気がしています。作り手が「最低限」で作ろうとしていると感じるときが、正直ありますね。
●生きるためにエンタメを作っている
──これはコロナ禍以前から少し感じていたことですが、「とりあえずこういう内容で」「あのイベントと同じ座組で」といった、ある種フォーマット化されたエンタメ企画が増えているように思います。
何匹目のドジョウでもすくってやるぜ、みたいなね。もちろん、そこに意図や想いがあれば僕はいいと思うのですが、ビジネスの面だけを考えて作られているとしたら嫌ですね。特に演劇の世界がそうなのですが、クリエイターとプロデューサーを兼ねちゃっている人が増えています。クリエイターはものを作る、プロデューサーはクリエイターが作ったものを商品として売る、お金を集めてくるという役割があると僕は思います。それを兼ねてしまい、作り手が商売ありきでエンタメを作ると、面白いものはなかなか生まれてこないんじゃないかな。
──「ものづくり」と「商売」を直結して考えるべきではない。
もちろん、ない袖は振れませんが、そのない袖を振るために工夫したり労力をかけたりすることで素敵なものが生まれると僕は信じています。それに、「最低限」でエンタメを作り続けていると、お客さんも気づくと思います。これからは、適当な作り方をしたものは淘汰される時代になる気がしますね。ひょっとしたら、既になっているかもしれません。
──なるほど。では末原さんがエンタメを作り続けているのは、舞台などに対して情熱があるから? 楽しいから?
情熱……というよりも、たぶん、生きるために作っているんだと思います。それは経済的な意味ではなく、呼吸しないと生きていけないと同義のほうで。何かを作ってないと、生きていけないんだと思います。「作るのが好き」というのとも、ちょっと違うかな。僕は、誰かのためにエンタメを作っているんです。誰かの心の支えになるものを作るために。だから、世の中に他人がいる限りは、もっとエンタメを作らなきゃいけない。でも、ぜんぜん時間が足りないし、能力も足りてない。それに腹立つことが多いです。
──エンタメの在り方が変わっても、その気持ちは変わることはない。
その時々で色々と考え方や形も変わるとは思いますが、エンタメを作り続けることは不変だと思っています。