黒島演じる暢子を時には厳しく突き放したり、叱咤激励したりと、まさに暢子の師のような存在である房子。房子の下で、暢子は料理人としても人間としても大きな成長を遂げていく。

原田は「自分の人生も含め、大変なことやうれしいことを経験してきたうえで、若い人にこういうことを言えるんだ! というようなとても良いセリフがところどころで出てきます。そこに自分の思いものせて伝えることができるので、すごく良かったです」とうれしそうに語る。

暢子もそんな房子に憧れを抱き、日々精進しているが、房子にとって暢子はどういう存在なのだろうか。

「暢子が親戚だとわかったことも大きいと思いますが、彼女に自分の死んだ妹を重ねているところもあるかなと。また、自分は結婚しなかったけど、娘のような気持ちもあると思いますが、その感情は絶対に出しません。もしも口に出してしまうと、それまで張っていた気もちが崩れてしまう気がするから。でも内心ではそう思っているし、自分が生きてきた道を振り返るように、暢子を見ているところもあるのではないかと。そして、これから先も、励ましたり厳しく言ったりしながらずっと彼女を見守っていくと思います」

また、黒島の魅力については「物事に対して真っ直ぐに向かっていくところじゃないでしょうか。黒島さんはヒロインなので、撮影のときは朝から晩まで出ずっぱりだから、あまり普通の話をする時間がないので、現場だけの印象ですが。たぶんご本人はすごくシャイな人なんじゃないかとも思いますが、そういう真っ直ぐさを一番に感じます」と言う。

そして、「朝ドラの主人公は本当に大変です。セリフの量も膨大だし、ヒロインの何十年という長い人生を見せていかないといけない」と黒島をねぎらったあとで、「この間、すごく大事なシーンの撮影があったんです」と、心に残った撮影エピソードを明かしてくれた。

「そのシーンで少し私の意見を黒島さんに言ったのですが、彼女がその思いをきちんと感じ取ってくれて、次の本番でものすごく良いシーンになったんです。その時になんだか、房子と暢子という役の関係性が、役者の私と黒島さんの関係とリンクしたような気がしました。やはり作品は人と人が関わってやっていくもので、先輩や後輩という間柄は関係ないのですが、自分が感じたことを、同じ俳優として『こうだと思う』と伝えることって、私は悪いことではないと思うんです。だからそれは本当にいい経験だったと思います」

そう充実感あふれる表情で語ってくれた原田。今後も暢子と房子の師弟関係を超えた深い絆にも注目して楽しみたい。

■原田美枝子
12月26日生まれ、東京都出身。1974年に女優デビュー。1976年、『大地の子守歌』、『青春の殺人者』などに出演し、キネマ旬報主演女優賞など多数受賞。『火宅の人』(86)で第10回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞、『愛を乞うひと』(98)で第22回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など数多くの賞を受賞。他にも黒澤明監督『乱』、『夢』をはじめ数々の名匠の作品に出演。近作の主な出演作は、ドラマ『俺の話は長い』(19)、『星とレモンの部屋』(21)、『津田梅子~お札になった留学生~』(22)、映画『世界から猫が消えたなら』(16)、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)など。菅田将暉とW主演を務める『百花』が9月9日公開。

(C)NHK