自身にとって特に大きな経験になった作品を尋ねると、すべてが大事な経験になっているとした上で、今年公開される主演映画『ケイコ 目を澄ませて』(三宅唱監督)を挙げた。

「第72回ベルリン国際映画祭」のエンカウンターズ部門へ出品された本作は、元プロボクサー・小笠原恵子の自伝『負けないで!』をもとにした映画で、岸井は耳が聞こえないプロボクサー・ケイコを演じた。

16mmフィルムが用いられた撮影は、岸井にとってとても幸せな時間になったという。「ずっと映画が好きでやってきて、初めて長い映画で16mmのフィルムで撮ったんです。私は主演ですがほとんどセリフがなかったので、カラカラカラって回っているフィルムの音がずっと聞こえているんです。『あ、これを聞くために俳優の仕事をやってきたのかもしれない』って錯覚するほど幸せな時間でした」

そして、「現代の映画はデジタルで撮っていますが、これまで見てきた好きな映画はフィルムで撮っている。それをやっと経験できて、私の大好きな映画は、あれもこれもこういう風に撮っていたんだなって。フィルムはデジタルと違ってモニターも全然ないし、フィルムの音が入ってしまってあとから処理したりするのですが、フィルムで撮るという経験ができたのは本当に幸せでした」と目を輝かせながら話し、「早く誰かまたフィルムで撮ってくれ~(笑)」と願った。

フィルムでの撮影は演技にもプラスになる部分があったという。「デジタルと違ってフィルムは何回も撮れないんです。なのでとても緊張感があり、みんなを集中させる力があるなと思いました」。また、「照明も現場に入ったときから美しくて、カメラの前だけでなく空間が全部きれいなんです。いろんなことが整っていて、準備万端でないとフィルムでは撮れないので」と続け、「公開が楽しみです」と心を躍らせた。

愛する映画に対して、今後どのように関わっていきたいか尋ねると、「できればまたフィルムで撮りたい」と答え、「私はカメラが趣味で、フィルムで撮っているのですが、全然質感が違います。フィルムカメラが流行っているみたいなので、映画も、もう少しフィルムで撮れるような体制ができたらいいなって勝手に思っています」と期待した。