――では改めて。今回、陰のある人物を演じられてみて、ご自身としてはいかがでしたか?
捜査会議などで刑事役の皆さんと一緒にいることが多かったのですが、キャスト表を見ていただくと分かる通り、埼玉県警・刑事部捜査一課の調査官役を演じた堀部圭亮さんを始め、私のパートナーをやっていただく今野浩喜さんなど、"喜劇畑"に根を張った方たちが集まりすぎていて、『この捜査会議にどれだけ説得力があるのか?』みたいなところは、自分たちでもツッコんだりしてましたね(笑)。でも、そこはさすがにいろんな経験値を積んだ方たちばかりなので、本番になると実にまぁ見事にドンピシャ合わせてくるんです。僕は今回、主演としてあまりにもいろんなものを背負いすぎていたので、そこには参加できなかったんですけど、“喜劇畑”に根を張った先輩たちは、まぁみんな話好きで、とにかく話が長い(笑)。
――なかでも相棒役の今野さんとの阿吽の呼吸は、絶妙でしたね。
お互いどうしても面白いことをやりたがってしまうタイプの役者ではありますが(笑)、今回はそこはグッと抑えて抑えて真面目にやった次第です。土方政人監督が「今回は昭和の刑事ドラマっぽいところを出したいから、ムロさん、タバコを吸ってもらってもいいですか?」とおっしゃって。この数年、私たちがテレビではあまりやってはいけないとされることを求めてくださったんです。捜査に行き詰まった時なんかにタバコを吸うお芝居をしながら、「あぁ、自分もこんなことができる役者になったんだなぁ」と感慨深かったです。取り調べなんかでも、昭和のドラマや映画だと、大きい声で詰めるイメージがあると思うんですが、あくまでも今回の舞台は現代なので、そこは冷静に詰めるように心がけました。これまでも喜劇では「取り調べ」も数多くやってきたんですが、今回は被疑者のキャラクターによって違いを出せるように、監督と相談しながら自分なりに考えてやったつもりなんです。「あぁ、この役者さん、それなりにちゃんとやれているじゃない。やりがいのあるお芝居をさせてもらえてよかったね」と、全5話通して自分の芝居を見た上で、客観的にそう思えましたね。
――失踪した少女の父親役を演じた佐藤隆太さんとの共演はいかがでした?
僕ら役者は、どうしても直球を避けたり、緩急をつけたり、変化球で勝負してしまったりしがちなんですが、佐藤さんのようにあそこまで真っ直ぐにストレートでやらせてもらえると、やっぱりやりがいがありますね。今回のドラマにおける僕らの関係性は、友だちでもなく、知り合いでもなく、特殊な関係なので、刑事と行方不明者の家族としてベンチに座って話すときの距離感みたいなものは、監督や佐藤さんともずいぶん話し合いました。コントでは割とよくある距離感なんですが、シリアスなドラマでそれをやるといったいどうなるか。その距離感には、ぜひ注目していただければと思います。
――演じられた奈良と、ご自身との共通点があれば教えてください。
通常は、台本をいただくと自分が演じる役のセリフをどんなふうに言おうかと想像しながら読んでしまうことが多いのですが、今回はどの役ということではなく、「この脚本に興味はありますか?」という形でお話をいただいたので、ミステリーとしても、刑事ドラマとしても、フラットに興味深く読ませていただくことができてうれしかったです。「このような大きな使命感や正義感を、果たして自分自身は持つことができるのか」というのが、奈良に対する最初の印象です。妹の身に起こったことを、兄として背負って生きようと決めた覚悟や使命感といったものが、自分の中に生まれるのか。自分も奈良と同じように事件に向かえるのか、と考えた上で、自分なりに覚悟を少しずつ積み重ねて現場に臨んだのですが、やればやるほどキツくて(苦笑)。事件が進まない辛さだったり、家に帰って妹の顔を見て感じる辛さだったりで、心が休まる瞬間がないんですよね。「そりゃあ奈良はこのご時世にタバコもやめられずに、家に帰って酒を飲んじゃうよなぁ。荒れずにいるためのはけ口はどこにしているんだろう?」「結局この男は、それを背負って生きていくって決めたんだな」って。最終回のラストで奈良が見せる顔は、これまで自分の背負ってきたことからの解放なのか。それとももうひと覚悟増えた顔なのか。ぜひその顔を楽しみにしつつ、観ていただけたらと。
――「今まで出ていた作品の立ち位置とは違うな」と、肌で感じる瞬間はありましたか?
今まで主演を背負わせてもらった時は、歳下の共演者が多い現場だったのに比べて、今回は圧倒的に先輩方が多かった。でも台本上では僕が一番先に名前が出てくる立ち位置ということで、皆さんがしっかり神輿を担いでくださって。僕の意見を踏まえて先輩方が肉付けしてくださったからこそ、「もっとしっかりひと言目を言わなきゃ」という思いも強くなりました。「こういう先輩たちがいてくださるから自分も頑張れるんだ」と改めて感じましたし、「今度自分が逆の立場になったときは同じようにしたいな」と教わった部分もあります。今回のドラマは、どうしてもシリアスに描かざるを得ないダークな部分があるので、奈良のキャラと同じように僕もあまり口数が多くないところから始めざるを得なかったんです。本当はメイク中もメイクさんとふざけたいですし、撮影の合間には共演者の皆様ともふざけ倒しながらも本番バチコーンやって、「あの人、オンとオフの切り替えがすごいよね」ってスタッフさんに"良い陰口"を叩かれたい役者なんですが(笑)、今回はさすがに無理でした。