800Vで充電時間が短縮

充電時間は消費者だけでなく商用車ユーザーにとっても障壁になります。通常、都市部での運転や通勤には自宅で一晩充電すれば十分です。しかし、長距離運転を計画する際、特に電気自動車の航続距離を上回る遠隔地に行く場合は適当なタイミングで充電ステーションのある経路を選ばなくてはなりません。充電設備は最寄りの公共施設に設置されていることが多いですが、待ち時間があるのは好ましくありません。商用車の場合、問題はもっと複雑です。充電のために集配拠点へ戻ったり、現場で充電しながら90分間何もできないと、生産性が低下し、ビジネスの収益に直接影響が出てしまいます。

800Vアーキテクチャにはどのような優位点があるでしょうか? 前述のように、電力を維持したまま電圧を倍増すると電流が半分になります。充電中に充電ケーブル、車両の充電口、内部配線の制約になるのが放熱です。400Vから800Vに移行することで損失当たりの充電率が倍になります。このことにはいくつかのメリットがあります。1つめは、単純に充電時間の短縮です。充電の電力が倍になれば、充電時間は半分になります。ただし、現実にはそれほどの短縮効果は得られません。意外なメリットとしては、充電ステーションの利用効率が挙げられます。車両を充電する時間が半分になれば、その充電器を利用できる車両数が倍になります。

ポルシェと起亜自動車は新しい完全電気自動車を開発しています。その航続距離はガソリン車の中央値に近づきつつあり、充電時間もガソリンスタンドに立ち寄って充電し、買い物する程度になっています。展開されている最新充電ステーションの最大定格電力は400kWで、800Vアーキテクチャには十分以上の出力です。

ポルシェの完全電気スポーツカー「Taycan」の航続距離は420km(260マイル)です。Taycanは800Vバッテリー アーキテクチャを持ち、300A(240kW)の急速充電ステーションで5%から80%まで充電するのに必要な時間は22.5分です。400V充電ステーションでも充電可能ですが、その場合は約90分かかります。起亜自動車が発表した800VアーキテクチャのEV6は最大239kWの急速充電能力を持っており、10%から80%までの充電を18分で行うことができます。また、480km(300マイル)の長航続距離を持つバージョンもあります。

商用車にとって、充電時間の短縮は決定的な違いを生みます。急速充電によって稼働時間が延び、満充電のために集配拠点へ帰還するのを夕方まで遅らせることができるからです。多くの地域で義務付けられている30~40分の休息時間の間に急速充電できることも重要な点です。

予想以上に早く普及が進む800Vシステム

800Vアーキテクチャは当初の予想以上に急ピッチで自動車市場に浸透しています。先陣を切っているのはポルシェですが、スポーツカーだけでなく起亜自動車や複数の中国メーカーも800V車を提供し始めました。自動車市場でよく見られるように、イノベーションはハイエンド車で始まり、テクノロジーの値段が手頃になるにつれて徐々に一般市場に普及していきます。800Vシステムは低コストというメリットがありますが、当初考えられていたよりも早くそのメリットを中価格帯の消費者市場でも活かせそうです。

自動車市場で800Vアーキテクチャの採用が進む中、メーカーが高電圧システムのメリットをさらに追求することは間違いありません。こうしたメリットはスケーリングできます。つまり、900V以上のアーキテクチャによって航続距離の延長、軽量化、充電時間の短縮が強化されます。インフラストラクチャもそれに追従する必要があります。新しい400kW充電ステーションはすでにその方向への進化を可能にしています。