また、頼朝役の大泉洋に対して、もともと全幅の信頼を寄せていたという三谷氏。「大泉洋という俳優が源頼朝を演じたことで、結果的にこういう頼朝ができあがったということがすべてだと思っています。大泉洋という俳優の魅力や力量を、僕自身はよく知っています。そして、僕が望んでいた頼朝像を、もしかしたらそれ以上のものを演じてくれるだろうという信頼感がありました」

意外にも大泉とは、昨年末の紅白以来会ってないそうだ。「最後に会ったのは、紅白で僕が審査員をやった時で、それ以来、直接は話してないけど、放送を観て、彼は本当にわかってくれているなあと感じていました」と心からの信頼感を口にする。

頼朝は源氏を背負う棟梁ならではの残酷な行為に出ることも多く、その度にSNSでは「すべて頼朝のせいだ」と叩かれてきた。そのことについて三谷氏は「大泉さんが『日本中に嫌われている』と思っているという話を聞いたんです。その時、僕は『日本中に嫌われても、僕は君のことが好きだよ』とメールをしました。そしたら『おまえのせいだ』という返事がきました」とおちゃめに笑う。

気のおけない関係性がうかがえるが、まさに第25回は、三谷氏の“頼朝愛”が炸裂した回だったようにも思える。

「源頼朝という人は、今回の主人公ではないにしても、メインの登場人物として描ける喜びは、脚本家冥利に尽きますね。あれだけドラマチックな人生はそうそうないと思うし、なおかつ彼は決して聖人君子でもないし、女好きだってことも含めて、マイナス面も抱えた歴史上の人物です。だからきっと僕じゃなくても、誰が書いても魅力的な人物になるし、それぐらい面白い人だということは、昔から感じていました」

また、大泉について「やっぱり彼以上の人はいなかったというか、孤独さを含め、こんなにリアルな頼朝を演じられる俳優さんがほかにいただろうかと、僕は思っています」と、これ以上にない賛辞を述べる。まさに大泉にとっても、役者冥利に尽きる褒め言葉だと思うが、『鎌倉殿の13人』が彼の代表作の1本に加わったことは間違いなさそうだ。

■三谷幸喜
1961年7月8日生まれ、東京都出身の脚本家。1983年に劇団東京サンシャインボーイズを結成し、多くの舞台を手掛ける。1993年に『振り返れば奴がいる』で連続テレビドラマの脚本家としてデビュー。1994年にドラマ『古畑任三郎』シリーズで人気脚本家としての地位を確立。1997年には映画『ラヂオの時間』で映画監督デビューし、『THE 有頂天ホテル』(06)、『ザ・マジックアワー』(08)、『ステキな金縛り』(11)などを手掛けていく。映画監督作の近作は『記憶にございません!』(19)。大河ドラマの脚本は『新選組!』(04)、『真田丸』(16)に続き3本目となる。また、大河ドラマ『功名が辻』(06)、『いだてん~東京オリムピック噺~』(19)には役者として出演した。

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