2019年には、カトリーヌ・ドヌーヴやジュリエット・ビノシュらをキャストに迎え、全編フランスで撮影した映画『真実』を発表した。
「フランスは映画が文化として守られているので、映画自体も、映画を作る人も、制度として非常に守られている。映画は自分たちが生んだという自負があるから。韓国は今、映画がビジネスとして活況を呈しているので、熱気が強い。フランスだと映画は文化だしアートだけど、韓国は少し前までは国策であり今はビジネスチャンスとして開かれている部分がすごく強い。そして日本は趣味の域をなかなか出ない。その良さと大変さがあると感じています」
日本を飛び出して映画を制作することで、それぞれの国の良さや課題が見えるように。「視野が広がっているだけではダメで、それをどう日本にフィードバックして改善に向けて動けるか」と、海外での経験を日本の映画界に生かしていくつもりだ。
そして、今後海外でどのような挑戦がしたいか尋ねると、「あまり挑戦という感覚では捉えていないんです」と是枝監督。
「海外で映画を撮る面白さは、自分の好きな役者と仕事ができるということ。その人がたまたまフランス人や韓国人で、彼らが暮らしている土地で撮ったほうがいいから僕が乗り込んでいくというだけで、チャレンジとは考えていない。イーサン・ホークとまたやりたいから、イーサン・ホークを今度撮るならアメリカがいいなという感じです」
また、撮りたい題材があり、それを撮るのにふさわしい場所が海外だった場合は、海外で撮るという考えだ。
『ベイビー・ブローカー』も、赤ちゃんポストに預けられる赤ん坊の数が日本と比べて韓国は圧倒的に多く、赤ちゃんポストを題材として扱うなら日本より韓国で撮ったほうが普遍化できると考え、韓国で撮影した。
言葉の壁は、現場では特に感じないという。「演出の言葉は、10年以上付き合いのある通訳さんに現場に入ってもらっていて、自分のニュアンスがちゃんと伝わるような体制で、優れた役者がいてくれたら、自分の言葉が芝居に反映されるということはフランスでやってみて自信になりました」。フランス、韓国以外の国で撮るハードルも感じていないようで、「日本語しか話せないので、アメリカで撮ろうが、ブラジルで撮ろうが、そんなに変わらないと思います」と笑っていた。
1962年6月6日、東京都生まれの映画監督。1995年、『幻の光』で映画監督デビューを果たし、ヴェネチア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。『誰も知らない』(2004)、『そして父になる』(2013)、『海街diary』(2015)、『三度目の殺人』(2017)などで、国内外で数々の映画賞を受賞。『万引き家族』(2018)は、第71回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。初の国際共同製作映画となった『真実』(2019)は、第76回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門でオープニング作品として上映。『ベイビー・ブローカー』(2022)で初めて韓国映画の監督を務め、第75回カンヌ国際映画祭でソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞、さらに「人間の内面を豊かに描いた作品」に与えられる「エキュメニカル審査員賞」も受賞した。
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