――そもそも、藤林さんはなぜ作詞家になられたのでしょうか。
本当に偶然でした。たまたま作詞家の方と知り合いになって、「私もやれますか?」って聞いたら、「いいよ、事務所紹介するよ」って言われて。普通に作詞家を目指していたのだったら、学校に通ってとかはあったかもしれないんですけど。そんな感じでいきなり書いてみてと言われて、「どうやって書くんだよ!」と試行錯誤しながらスタートしました。
――それまでに音楽活動などはあったのでしょうか。
特にしていないんです。もちろん、本を読んだり音楽を聴くこと自体は好きだったんですけど、本当にたまたま作詞家の方と知り合えてなんですよね。作家事務所があるということ自体知らない、入口もぜんぜんわかっていなかったけれど、そこに灯が見えたので歩いていこうと思いましたっていう感じです(笑)。
――藤林さんご自身の作詞歴で見たときのターニングポイントは?
BoAちゃんの「Rock With You」(2003年)という曲があるんですけど、初めて大きいタイトルのシングルを取れたので、そこからは特撮にせよポップスにせよ、垣根が一気にはずれて、なんでもできるようになったという感覚があります。いろんなジャンルをやっていますねと言っていただけることが多いんですけど、オーダーが多いほうがうれしいんです。逆に自由にやってくださいと言われるほうが難しい。
――ジャンルの違いみたいなところは難しくないですか?
私はわりとその間口は広いんですよ。なのでジャンルの違いで困るということはあまりありませんでした。どちらかというと「少年よ」のように目線が違う楽曲のほうが難しかったですね。普段は主人公目線ですが、これは父親的な目線なんです。実は私、アーティストの方と会っても、サインをもらうことなんて一度もなかったんですけれど、布施さんとお会いしたとき初めてサインをいただいたんです。母がファンだったので(笑)。
――特に平成以降、「仮面ライダー」の主題歌は本当にいろんなアーティストの方が歌っていますね。
『仮面ライダーディケイド』の時もGACKTさんって聞いてびっくりしたんですよね。「歌ってくれるの!?」って。
――藤林さんは多くのアーティストの方の歌詞を担当している印象があるので、よくあることなのかと思っていました。
でも、シンガーさんとバンドの方ってスタンスが違うと思うんですよ。バンドの方たちはご自身の歌詞で歌われることが多いですよね。『仮面ライダー鎧武』の「鎧武乃風」さんの時もビクビクしてました(笑)。
――楽曲の楽しみ方も変わってきていて、CDから配信へと切り替わることで作詞の仕方は変化したりしたのでしょうか。
より歌詞を一緒に楽しんでいただける時代にはなったのかなと思っています。だからこそ、曲をより身近なものとして、身近な言葉で身近なテーマで共感されるものじゃないとなかなかバズっていかないというのはすごく感じます。「仮面ライダー」では世界観があるので、幻想的であったり神秘的であったりしていいと思うんですけど、普段の作詞ではなるべく身近なものとして捉えていただけるよう気をつけています。
――今日は「仮面ライダー 50th Anniversary SONG BEST BOX」のサンプルをご用意していただいたのですが、あらためて振り返ったお気持ちは?
長くシリーズの作詞に携わってきましたが、『仮面ライダー』の主題歌、「迫るショッカー」で始まる「レッツゴー!!ライダーキック」には勝つことができないなという思いがずっとあったんです。でも、こうしてBOXとして楽曲が並び、作品も配信で同じように楽しめる時代になって、伝説的な楽曲とも並走できている気がして、それはうれしいし光栄だなと思います。
――「平成ライダー」シリーズも、最初のうちは次があるかわからない状態だったと聞いたことがあります。
そうなんですよ。「次やるかはまだわからないんだよね」って言われて、まあそういうもんだよなと当時は思っていました。それがあれよあれよと続いていったんですよね。私は「ニチアサ」というワードもずいぶん後で知ったんです。いつの間にそんなふうになっていたの!?って。私の「予言者」というのも、気が付いたらそういうことになっていました。特撮作品はとにかく現場の方々のファミリー感とシリーズへの愛がすごくて、自分としてはそれに応えたいと思って作るうちに時間がたったという感じなんです。
――でも改めてすごい楽曲数ですね。
作品に寄り添うようにというのは一番に考えてきたので、そういう気持ちは負けないぞという思いはあります。作詞をしていて一番うれしい瞬間が、オープニングの映像がついたものを見たときなんです。それを見て、ああ仕事がひと段落したなと実感します。最近はもう一つ、超英雄祭(2022年は感謝祭)などでファンのみなさんの反応を見て、曲が作品のいろんなシーンを思い出すリマインド装置みたいになっているのを感じて、それがとてもうれしいんです。「仮面ライダー 50th Anniversary SONG BEST BOX」は担当の方の尽力で、今まで眠っていた楽曲も収録されているので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。
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