――その映像の面での発見は具体的にどんなところでしょうか。
見たことのない宇宙の現象、今回はシャボン玉が引き起こすものだったのですが、そうした未知のものを描くときに「既視感にアクセスしたほうがいい」という言葉が川村さんとの間に出てきたんです。何かしらの既視感のあるものが、意外な形で出てきたときにそれが物語の中で印象的なものになるのかもなって思ったんです。
例えば、澤野弘之さんにハミングを用意していただいたのですが、そこに至るまでいろんなモチーフを候補として出していただきました。いろんな動物の鳴き声を重ねてみたらどうだろうとかいろいろ試していくなかで、正解だったのは学校のチャイムのアレンジだったんです。それはみんなの懐かしい既視感にアクセスして、それが宇宙からの呼び声として見たことのない形で出される。そして作中で「ねえさま」と呼ばれるあぶくの親玉みたいなものは、沸騰する鍋なんですよね。鍋を沸騰させていると、泡が真ん中に集まっていく。あの現象を今回の敵の親玉にする。既視感をずらすことで何かザワッとした肌触りを出すための技法。こういうのは川村さんとやりとりしている中で、自分がこういうことかなと会得していった部分、今回の仕事でたどり着いたところだったりしますね。
――主演の志尊淳さん、ゲスト声優の広瀬アリスさんの演技についてはどんな印象をもたれましたか。
事前に声は聞かせていただいていました。声を通じて人柄が感じ取れるところがあるのですが、志尊さんについては、おこがましいながら自分と似たものを感じたんです。人との距離の取り方であるとかそういう面においてですね。
主人公のヒビキは、この作品の中で一番心を閉ざしています。そこからだんだんウタとの出会いを経て心を開いていくというキャラクターなんですけど、最初の一番心を閉ざしている状態でも、かといって嫌な奴、人間的にダメな奴とかに聞こえないでほしいなと思っていました。そのときも心を閉ざしてはいるけれど、その奥に優しさがあるというところまでがその声から感じ取れるといいなと。そういった意味で、志尊さんは自分と性格的な意味で通じ合える部分があったし、今回ほしいイメージで、ぶっきらぼうであっても、そこに優しさがあることが感じられる。そういった意味で理想的でした。
広瀬さんが演じるマコトは、劇中で知的な科学者であると同時に親しみやすいお姉さんというのがキャラクター的な条件で、そこに一番ぴったりきたのが広瀬さんでした。どっちかだけだったらいろんな方がいると思うんです。でも両方という方はけっこう少なくて絞られていきました。
――監督のフィルモグラフィーの中で、シリーズ作品の映画ではなくオリジナルの長編映画は初挑戦になります。製作を通しての気づきがあれば教えてください。
オリジナルは尺が短いので、いろんな要素を置いていくときに、「その後の持ち運ばれ方」を意識して品ぞろえしていく必要があるんだなと思いました。これが今までの仕事にはなかった要素ですね。
具体的にはシャボン玉というのがそうです。シャボン玉がストーリーの中に導入されて、これがぴったりとはまると、宣伝をするとき、人の手を通じて流通していくときに非常に有効なフックになりました。いろんな場面で映えるし、作品を印象付けてくれるんですよね。
実は、シャボン玉というアイデアが出たときに、いろんなプロデューサーや売る側の人たちが「それはいけますね」って言ってたんですけど、その時にはシャボン玉がそんなにいけるとされる理由がわかっていなかったんです。でもいざ流通の段になって、なるほどこういう風に便利だったからかと納得したんです。
映画が映画そのものだけではなく、ストーリーだけでもなくキャラだけでもなく、持ち運ばれるときのことも考え合わせて映画は作られていくもんなんだなということは発見でした。こういうことは、今までの仕事で考えてなかったゾーンで、勉強になりました。
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