大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)第19回「果たせぬ凱旋」(脚本:三谷幸喜 演出:安藤大佑)は、義経(菅田将暉)の大活躍によって平家が滅亡して、いよいよ源氏の時代へ――。ターンが変わったからか、従来の三谷幸喜作的な楽しみが戻ってきたように感じた。
例えば、ナレーション(長澤まさみ)のくすぐり。それと後白河法皇(西田敏行)と九条兼実(田中直樹)のやりとりの繰り返し。笑いのツボを心得た田中直樹がうまい。それとなんといっても、俳優たちの連携をひとつの画面で見せること。政子(小池栄子)と実衣(宮澤エマ)や全成(新納慎也)たちの北条家作戦会議、文覚(市川猿之助)が性懲りもなく頼朝(大泉洋)の父・義朝のドクロを持ってきたシーン、義経、里(三浦透子)、静御前(石橋静河)の三角関係、頼朝と御家人たちのやりとり……等々。演技巧者たちのちょっとした身振りや目線の動かし方などそれぞれが有機的に動く様はサッカーの試合観戦しているようで楽しい。
義時(小栗旬)は相変わらず困った顔をしてあちこちの顔色を伺っている。さぞや胃が痛いことであろう。小栗旬は胃薬のCMに出演しているだけはあって胃がしくしくしているような眉間や口元がみごとである。それと、34分頃、頼朝が時政(坂東彌十郎)に京へ行くように命じたとき、ぷるぷると小さく顔を横に振る、そのかすかな拒否の意思に、頼朝には刃向かえないが父が大事という微妙な感情が見えた。
本当なら、政治の頼朝と戦の義経、天才同士ががっちり手を取り合えば源氏は盤石だったのではないだろうか。ところが後白河法皇がそれを阻む。頼朝が自分の立場を脅かす人物を極力排除しようとするのと同じく後白河もそう考えて行動しているように感じる。そうしないと源氏が強大になり過ぎる。
義経と頼朝を引き裂こうと図る後白河。頼朝と義経を混線させる源行家(杉本哲太)。この2人のことを語るナレーションが面白い。後白河が脈を止めたことを「マネしてはいけない」とささやき、行家のことは「死神のような男」と呼ぶ。SNSでも話題になった。
とりわけ、行家の顛末を「これより少しあとのこと」とあらかじめ語るのは、三谷幸喜の代表作のひとつ『王様のレストラン』のお決まりのセリフ「それはまた別の話」(元ネタはビリー・ワイルダーの映画)のようでうれしく感じた。陰謀や殺戮渦巻く緊張感あふれるストーリーも見応えがあるが、しばらくそれが続いたので、第19回はすこしだけホッとできたように感じる。とはいえ水面下ではじわじわと義経が追い詰められて……。
正妻・里までが義経を追い込む。静御前との仲を嫉妬して襲撃させた件は以前、第12回の頼朝と亀(江口のりこ)の屋敷を政子が襲わせたことと似ている。これもあのときと同じ「後妻打ち」なのだろうか。亀のときは義経がやる気満々で頼朝との愛の館を焼いてしまったが、その報いのように義経も静御前と一緒のときに同じような目に遭う。土佐坊昌俊(村上和成)に襲撃を頼む里が「顔は勘弁してあげて」とつけ加えていた。やはり『鎌倉殿』の世界線でも義経は見目麗しい人物であったのか。それはともかく、夜中の奇襲にひとり応戦する義経は八艘飛びに次いでかっこよく見えた。