慶應義塾大学(慶大)、高知工科大学、アラヤの3者は5月12日、外界の情報に不確かさがある状況で不適切な行動を抑制するとき、ヒト脳の上側頭溝を経由する前頭前野と後頭側頭皮質の信号伝達が逆転することを発見したと発表した。

同成果は、慶大大学院 理工学研究科の津村夏帆大学院生(研究当時)、新滝玲子大学院生(研究当時)、慶大 理工学部 生命情報学科の地村弘二准教授、高知工科大の中原潔教授、同・竹田真己特任教授、アラヤの近添淳一チームリーダーらの共同研究チームによるもの。詳細は、米国神経科学学会が刊行する学術誌「The Journal of Neuroscience」に掲載された。

信号が赤であれば止まるといった不適切な反応を抑える「反応抑制」は、ヒトでは右大脳半球の前頭前野が関わる重要な認知の制御機能として知られている。しかし、実際の生活の中においては、身の回りの重要な情報が常に適切に判別できるわけではない。ところが、これまでの反応抑制の研究では、行動する状況が明確に判別できることが前提になっていたという。

一方で、知覚される情報の曖昧さを操作し、判別がどのように変化するかを調べる「知覚的意思決定」の研究では、後頭側頭皮質が視覚情報の様式(たとえば、動き)に依存して判別を導くことが知られている。

そこで研究チームは今回、「知覚的な曖昧さがある状況で、反応抑制は脳の前頭前野と後頭側頭皮質のどのような仕組みにより達成されるのか」という問いを立て、実験をすることにしたという。