長年にわたりドキュメンタリーを制作し、数々の賞で評価されてきた寺尾D。撮影においては、どのような意識をしているのか。
「基本的にカメラマンと僕で行くので、音声さんがいないんです。音も大事なのは分かってますけど、特にこの大浜1丁目のシリーズは、できるだけこちらを意識されないように、被写体がナチュラルでいることが大事だと思っています」
そのため、インタビューはほとんどせず、そこにある光景を撮ることを優先。「大浜1丁目の人たちは、しゃべりが抜群ですから(笑)」と、個性あふれる登場人物たちならではの手法だが、だからこそ被写体の人たちが構えずに、自然体の姿を見せてくれている。
「昌万」前の路地が大通りに拡張される前は、店の向かいの家の2階から定点のように撮る映像が印象的だ。店の前を通る帰宅途中の小学生たちに、ミーコちゃんが「おかえり~」と声をかけ、追いかけっこしたりする微笑ましい様子が映し出されている。
「あそこから撮ると、カメラに映っているのを意識しない姿が見れるだろうと思ったんです。実は、その家の中には入れなかったんですけど、ベランダは使っていいと言われたので、ハシゴを掛けて上って撮っていたんです。あそこからの撮影はちょっと賭けでして(笑)、すぐに降りれないから、何となくこの時間帯はいい画が撮れるんじゃないかと予想して上がってました」
道路の拡張後は、反対側の歩道に定点撮影ポイントを変更。「ちょっと映画的に撮りたいなという意識があって、フレームがあってその中にいろんな登場人物が勝手に入ってくるような画がいいんです。あんまり意図してカメラで追ったりしたくないという認識でカメラマンと共有しています」と、寺尾Dの作品に欠かせない映像になっている。
ナレーションもあまり入れないのが特徴で、「シーンとして見てもらい、“言わずに感じてもらいたい”というのがあります」とのこと。それだけに、重要なポイントで流れるナレーションを、今回は女優・倍賞千恵子が担当しており、「倍賞さんが受けてくださって本当にうれしかった」と喜びを述べた。
■普通に生きている人の輝きを見つけて描く
これまで手がけてきた作品は、どれも愛媛の今を捉えたもの。「愛媛って、例えば原爆のあった広島のように大きなテーマがあるわけではないので、やっぱり人を描くことで地域が見えて、時代が見えてくるといいなと。普通に生きている人たちのドラマを撮って、突き抜けていけたら」と意気込みを語る。
最後に、ドキュメンタリーの魅力を聞くと、「普通に生きている人の輝きを見つけて描くことで、深いものが見えてきて、それが具現化できることですね。これは私たちローカル局ならではのやれることなんじゃないかなと思います。それと自分の根っこに、映画的に撮りたいという欲求があるので、風景が楽しいんです。天気だったり、心情だったり、そういうものがうまくハマったときの快感がありますね」と答えてくれた。
●寺尾隆
1969年、愛媛県生まれ。93年に南海放送入社、報道部所属。これまで手がけてきた主なドキュメンタリー作品は『親の目子の目「ガキ大将はどこへ行った?~子供たちの遊び社会は、今…~」』(96年:民教協親の目子の目奨励賞)、『もぎたてテレビ「夫婦の食卓」』(98年:民間放送連盟賞娯楽部門優秀賞)、『こ・わ・れ・る~小児病棟1年の報告~』(00年:地方の時代映像祭大賞)、『クマガイ草~小さな村の小さな奇跡の物語~』(02年:民間放送連盟賞エンターテインメント部門優秀賞/高柳記念賞グランプリ/ギャラクシー賞優秀賞/アジアテレビジョンアワードベストドキュメンタリーグランプリ)、『くもり ときどき、晴れ~今治大浜・小さなご近所物語~』(04年:ギャラクシー賞優秀賞)、『もぎたてテレビ70「屋根付き橋のある里~新緑の河辺を行こう~」』(06年:ギャラクシー賞入賞)、『あした、天気になぁれ』(07年:民間放送連盟賞エンターテインメント部門全国最優秀賞)、『ひだまり~今治大浜1丁目6年の記録~』(09年:民間放送連盟賞教養部門最優秀賞/ギャラクシー賞入賞)、『NNNドキュメント’18「薫ちゃんへ~認知症の妻へ1975通のラブレター」』(19年:ギャラクシー賞入賞)。