日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント’22』(毎週日曜24:55~)で、きょう8日に放送される『ともしび 今治大浜一丁目 17年の記録』(南海放送制作)。愛媛県今治市大浜1丁目にあるお好み焼き屋「昌万」のとにかく明るくてエネルギッシュな名物女将・ミーコちゃんを中心に、店に集まってくるご近所さんたちと支え合って生きる“普通の幸せ”を見つめた17年の物語だ。
取材したのは、南海放送入社30年目の寺尾隆ディレクター。ミーコちゃんやこの町になぜ惹かれ、長年にわたり追い続けるのか。そして、人々の自然体の姿を映し出すこだわりとは――。
■取材者も勇気づけられる印象的な言葉
南海放送とミーコちゃんの出会いは、同局の長寿地域情報番組『もぎたてテレビ』(毎週日曜11:45~ ※愛媛ローカル)での取材から。まるで映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の世界が飛び出したかのように、一本路地で1人1人がとても魅力的なご近所さん付き合いの光景があった。
「あの路地の見た目の魅力がありましたし、そこでの人間関係を見て、日本各地で失われていた輝きがあるのではないか」(寺尾D、以下同)と直感し、2004年に最初のドキュメンタリー『くもり ときどき、晴れ~今治大浜・小さなご近所物語~』を制作、第42回ギャラクシー賞で優秀賞を受賞した。以来、今回を含め5回にわたりこの一角のドキュメンタリーを制作してきた。
ミーコちゃんは常に笑顔で、その豪快な笑い声に誘われるように、毎日ご近所さんが集まってくる。なぜ、彼女は多くの人を惹きつけるのか。
「あれだけ自分をさらけ出せる方はなかなかいらっしゃらないと思いますし、優しくて思いやりを感じます。お客さんも、お好み焼きを食べたいというより、ミーコちゃんに会いたいからやってくるという感じ(笑)。食べて終わっても1~2時間いて、お話ししてますから」
ミーコちゃんの印象的な言葉に、切れかかった電灯を替えて店が明るくなったのを喜びながら、「死にかかってたのが生きてるんよ、電気も。諦めんでええんよ、こうして生きとるんだから」というものがある。寺尾Dは「この言葉が出るのがすごいですよね。僕らもあそこに行ったら元気がもらえるので、素晴らしいなと思います」と勇気づけられた。
番組を見て、来店する人も多いのだそう。「20年間引きこもっていたのが、ミーコちゃんに会いたいから家を出て、やってきたという方がいらっしゃったんです。これを聞いて、番組を作って良かったなと思いました」と、ドキュメンタリスト冥利に尽きる出来事もあった。
■伝えたい“1人じゃないんだよ”という思い
今回の番組を制作したのは、そんなミーコちゃんの人柄に、再び引き寄せられたからだ。
「コロナでお客さんが来なくなってしまったのに、お店を開けていると聞いて行ってみて、『何で開けてるんですか?』と聞いたら、『みんなの居場所がなくなって、心まで死んだらいかんやろ』とおっしゃったんです。経営的に大変な時期もあったのに、お店を開くことを優先したのが本当に素敵ですよね。なので、見ている方にも“ともしび”のような希望になればと思って、企画書を作りました」
人と人とのふれあいが失われてしまったこの2年。「コロナによって世界が大きく変わり、どうしようもないこともあるけど、ミーコちゃんが言う『大丈夫だよ、変わらない確かなものもあるよ』という思いを伝えられたらと思います」と寺尾Dは力を込める。
さらに、「ミーコちゃんって、お店のことを『家』と言うんですけど、それはお客さんみんなを家族だと思ってるからなんですよね。生きているといろんなつらいことがありますし、生きづらいこともあるかもしれませんが、“1人じゃないんだよ”というテーマも伝えたいですね」と、番組に込めた思いを語った。