ドラマ作りが本格的にスタートすると、苦労もあったようだ。ドラマプロデューサーとして約10年のキャリアがある佐野氏だが、NHKの連続ドラマ制作はこれが初。民放ドラマとは異なる論理があり、「全5話でなおかつCMがない」ことが、想像以上に難しく感じたからだ。
「1話の中に3回CMが入って、この辺で主題歌を流すといった民放連ドラのフォーマットが呼吸をするように自分になじんでいて、初めはそこから抜け出すのが大変でした。民放連ドラの場合は第1話の開始5~10分の中にいかに詰め込むかも勝負。世界観やキャラクターを全て紹介します」(佐野氏)
この違いを理解しながら、佐野氏が参考にしたのは海外ドラマだった。SFドラマとして海外で高い評価を受けるNetflixの『ストレンジャー・シングス』や『DARK』などを見返すと、世界観の見せ方の違いに気づく。
「時間をかけてじっくり進めているなと。開始10分の中に情報を詰め込む工夫をするより、もっと映像の力を信じて、丁寧にじっくり見せていこうと思いました。結果、『17才の帝国』を自分のこれまでのセオリーで作ったとしたら、今回の1話と2話分を1話に入れてしまうぐらい違いがあります」(佐野氏)
これら佐野氏のチャレンジを訓覇氏も全面的に支持する。「佐野さんのドラマ作りは、NHKとか民放だとか、そういったものを超えて、脚本家の吉田さんが描くものを大切にしながら、寄り添って作り上げていくというものでした」と、太鼓判を押した。
■目指したのは「登場人物の誰もが好きになれる」作品
もう1つ、佐野氏が挑戦したことがあった。それは黒澤明監督の『椿三十郎』や海外ヒット作の『ゲーム・オブ・スローンズ』などの話を吉田氏とした時に話題に上った登場人物の描き方だった。
「神尾さん演じる17才のリーダー1人のヒーロー物語ではありません。星野さん演じる役も、山田杏奈さん、田中泯さんや柄本明さんの役もそれぞれ魅力的で、それぞれが絡み合っていきます。誰が主人公か分からないくらい登場人物の誰もが好きになれる、そういうドラマをいつか作りたいと思っていて。まだまだ力不足ですが、志して作りました」(佐野氏)
初回からじっくりとその世界観を味わうことができる。『大豆田とわ子と三人の元夫』で音楽を手掛けた坂東祐大氏やスタイリストの伊賀大介氏らも『17才の帝国』のクリエイティブチームに参加し、スタイリッシュな印象を与える。最終話まで必ず見届けたくなること間違いない。
●訓覇圭
1967年生まれ、京都市出身。京都大学卒業後、91年にNHK入局。大河ドラマ『徳川慶喜』『いだてん~東京オリムピック噺~』、連続テレビ小説『あまちゃん』のほか、『ハゲタカ』『外事警察』『TAROの塔』『55歳からのハローライフ』『トットてれび』『きれいのくに』などのドラマを手がける。
●佐野亜裕美
1982年生まれ、静岡県出身。東京大学卒業後、06年にTBSテレビ入社。『王様のブランチ』を経て09年にドラマ制作に異動し、『潜入探偵トカゲ』『刑事のまなざし』『ウロボロス~この愛こそ、正義。』『おかしの家』『99.9~刑事専門弁護士~』『カルテット』『この世界の片隅に』などをプロデュース。20年に関西テレビ放送へ移籍し、『大豆田とわ子と三人の元夫』を手がける。