いまや都市部を歩けば、完全ワイヤレスイヤホンを耳につけた人を大勢見かける。もちろん、有線イヤホンやヘッドホンを使う機会が完全に無くなったわけではないが、多くの人にとって「ワイヤレス」なオーディオ周辺機器は、“特別なアイテム”ではなくなった。
そして、いま「完全ワイヤレスイヤホン」を買うなら1~2万円台のミッドレンジ帯が面白い。今回は、Appleの「AirPods(第3世代)」、ソニーの「LinkBuds」、Amazonの「Echo Buds(第2世代)」を自腹購入してそれぞれ使ってみたので、各製品の使い勝手について比較してみたい。
まずは完全ワイヤレスイヤホンの市場背景を振り返ってみよう
そもそも両耳に装着するピースが左右に分かれている「完全ワイヤレスイヤホン」市場に火をつけたのは、Appleの「AirPods」シリーズだ。
同製品は2016年9月に発表され、若干の発売延期を挟み、同年12月に発売を迎えた。当時は、ペアリング操作の容易さや、着脱をトリガーとした自動停止・再生などが斬新で、AirPodsはまさにUXデザインの真髄ともいうべき存在だった。
AirPodsがヒットした後には、競合他社が一気に完全ワイヤレスイヤホン市場になだれ込み。数年後には、あっという間に家電量販店に完全ワイヤレスイヤホン売り場ができた。そしてその後は、周囲の環境音を低減できるANC(アクティブノイズキャンセリング)機能を備えたハイエンドモデルが、市場の中心となっていった。
全国の家電量販店やECショップでPOSデータを集計する「BCNランキング」によれば、2020年7月から2021年7月までの販売台数シェアではAppleが独走。特に、21年7月の販売数量シェアでは、「AirPods Pro」が断トツの37.1%で、第2世代のAirPodsが6.8%、ソニーの「WF-1000XM4」が6.2%で続いている。
一方、肌感覚ではあるが、2021年末から2022年春にかけて、1~2万円台の魅力的な製品が増えてきている点も見逃せない。しかも、こうした価格帯の製品も、操作性・機能性ともにこなれたものが多くなってきた。
さて、冒頭でも述べた通り、筆者自身も今季は3つの製品を自腹購入してみた。以降は、それぞれを実際に使ったうえでの印象比較をしていきたい。「安価に使い勝手のよい製品を入手したい」という人にとって、製品選びの指針に役立てば嬉しい。
Apple「AirPods(第3世代)」は音質◎、空間オーディオも魅力
1台目は、「AirPods(第3世代)」だ。同機は、2021年10月に発売されたAirPodsシリーズの最新モデル。Apple Storeオンライン価格は23,800円で、上位のAirPods Proと比べれば一回り安い。Androidでも使えないわけではないが、ペアリングや設定操作の容易さやなどを鑑みると、やはりiPhoneユーザー向けの選択肢といえる。
特に、MacやiPadとも接続を切り替えやすいため、複数機器で楽曲を再生したり、オンラインミーティングなどをする人には魅力的だ。
AirPods(第3世代)の特徴は、イヤホンの形状が、耳に密着する「カナル型」ではなく、耳介に引っ掛けるインイヤータイプであること。上位のAirPods Proのように、ANC(アクティブノイズキャンセリング)機能は備えないが、耳への圧迫感を感じにくい。正直、筆者としてはこちらの方が長時間装着しやすくて好みだ。電車通勤・通学時間よりも、自宅にいる時間や、徒歩移動時などを中心に音楽を楽しみたいという人にうってつけだろう。
特に、シリーズにおける下位でありつつ「空間オーディオ」そして「ダイナミックヘッドトレッキング」機能に対応していることは重要だ。Dolby Atmos対応の楽曲や映画コンテンツなどを視聴する際に、臨場感がかなり高い。例えば、楽曲ならば目の前に奏者が浮かんでいるような感覚になる。
また、空間オーディオ抜きにしても、3機種のなかでは、断トツで音質が良い。フラットな音作りでありつつ、ほかのイヤホンでは失われてしまう高音域のディティールまでしっかりと聴こえる。趣味で、GarageBandやLogic Proを弄る人ならば、音を確認するのにAirPods(第3世代)があれば十分だと思えるくらいだ。ただし、音漏れはある。
マイクの音質も、3機種のうち、もっとも質が良いと感じた。近くでドライヤーを駆動しながら、LINE通話を試したところ、若干水中にいるようなくぐもった感じにはなったものの、比較的クリアな音声が届いた。なお、同検証は、iPhoneの「声を分離」機能を使わない状態での話である(iPhoneで同機能を使えば、3機種ともにドライヤーの音が相手に届かなくなるため)。