• ロボットとの芝居を入念に打ち合わせするディーン・フジオカ (C)NTV

こうした事前の準備を経て、いざ撮影へ。本番は、担当の助監督の合図に合わせて、エンジニアがコマンドを入力して動作させるという流れだが、そこからアイオロスに動きが伝わるまで0.5秒程度のラグが発生するため、助監督もそれを見越して少し早いタイミングで合図を出さなければならない。さらに、代読する俳優が声をリアルタイムで当てることになり、この全員の呼吸が合わないと受け答えのテンポが不自然になってしまうので、ベストなタイミングが決まったときは、思わずエンジニアがガッツポーズしていたそうだ。

現場に立ち会った、丸文の篠尚樹氏は「本番でNGを出すと出演者の方々に迷惑をかけてしまうというピリピリした雰囲気だったので、裏で動かすエンジニアは1つ1つの動きに非常に緊張感を感じていて、終わったときには汗びっしょりでした(笑)」と、大きなプレッシャーの中で連携プレーが行われていたことを明かす。

AIロボット開発チームのチーフ役として“共演”した内田理央は、アイオロスとの芝居に「思ったよりも大変でした(笑)」と感想を漏らすが、様々な動きの中でも、特に難しかったのはどのようなものだったのか。

「AIが搭載されているので、ロボット自身が最適な答えを出すように設計されています。そうすると、例えばA地点からB地点に移動するとき、途中に障害物があるとそこを避けて自分の安全を確保しながら移動するのですが、本番ではユースケ・サンタマリアさんのカバンに反応して、クルッと回ってしまいまして(笑)。その動きはAIの判断でブラックボックスになっているので、我々にはいじれないんです。AIを搭載しているからこその課題でした」(樋口氏)

また、本番の撮影現場で追加の要求をされるケースも。「やはり皆さんロボットの知識を持ってらっしゃるわけではないので、ラジコンのように操作すればできると思われがちなんです(笑)。実際はそういうわけにいかないので、『頑張ったらここまではできます』と、妥協点を見つけていくこともありました」と、ムチャぶりに対応した。

演出側が思わず役者と同じようにリクエストしてしまうのは、ロボットの自然な演技を見て、性能への信頼があった裏返しとも言えるだろう。

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■今後もドラマ・映画・CM出演に歓迎

ドラマ出演を経験し、「ロボットに演技を教えて、エンタテインメントの世界の中に入り込んでいくというのは、ロボットの存在が社会の中で本当に受け入れられる時代が到来したんだなというのを実感しました」という樋口氏。高齢化社会が進み、介護士不足が今後一層深刻となることが確実な中で、介護用ロボットが必要不可欠となる将来が待っているが、やはり高齢者には敬遠する人も多いのだという。

今回撮影に参加した機体は、近々介護施設に投入されて本業で活躍する予定だが、“ロボットの演技”というノウハウを得たことで、今後もドラマや映画、CMなどへの出演に歓迎姿勢。様々なメディアに露出することで、ロボットが身近な存在であることをアピールしたい考えだ。

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