――『ハリー・ポッター』や『ナルニア国物語』の熱心な読者ということですが、小説が実写化されることについて、1ファンとしてはいかがですか?

読者としてはすごく厳しい目線になります。なぜここをカットしたのか、とかいろいろチェックしますね。ただ自分の作品の場合は、先ほど言ったとおりの気持ちが正直なところです。

――ミステリーにミスリードされる面白さもありますよね。そうした自身の設計した構成が壊される恐れのようなものは?

いえ。今回のドラマ化では、私自身がミスリードされるだろうという楽しみがあるんです。自分が書いているから内容は知っているわけじゃないですか。オリジナルでも、こうなるだろう、犯人はこの人だろうと想像はしますが、それが違うかもしれない。おそらく、私が一番ミスリードされる視聴者だと思います(笑)

――ドラマ化されることで期待していることは?

それはやっぱり俳優さんたちの演技ですね。主人公以外のキャラにもすごくこだわって作った作品ですので、それを皆さんがどのような解釈でどう演じてくださるか。原作者としては、「受けて立つぞ!」みたいな気持ちでいます(笑)

  • (C)フジテレビ

■撮影現場のこだわりから創作活動に刺激

――新川先生にとっては初の実写化となりますが、それが今後の作品に生きることはありますか?

アレンジの仕方です。「ああ、ここうまいなあ」と思えた部分もありましたし、あとはスタジオセットの細かさ。例えば、少ししか映らない壁に貼ってある紙にもちょっと日焼けしたような加工が施してあり、「こういうのが大事なんだよなあ」というのは小説でも心掛けている描写で。神は細部に宿ると言いますが、そういったディティールにこだわることでリアリティがグッと上がったりするんです。実際、現場で目の当たりにして小説家として刺激を受けました。

――先生はプロ雀士という肩書も持ってらっしゃいます。これは、小説を書く上で何か役立ったりするのですか?

麻雀って4人でプレイしますよね。自分1人の都合ではなく、他の3人が何を考えているか、それを常に考えなければいけないんですけど、これは小説にも当てはまるんです。主人公視点で進みながらも、周りのキャラクター、脇役たちがそれぞれこの場面で何を考えているのか、それは作者としてしっかり分かっていなければならない。複数の思惑が絡み合ってストーリーが進んでいく様は、麻雀のように複数の思惑を読んで組み立てていく作業と似ているな、と感じています。

――ミステリーだけでなく、官能小説も書かれています。

依頼が来たときはびっくりしました。そもそもこだわりなく、いろいろなものを書きたいのですが、私が一貫して書きたいのは“人間”。様々な作品、ジャンルを通して今後もいろいろな“人間”を描いていけたらと思っています。

――それでは、最後にメッセージをお願いします。

キャスト発表の時点で私もワクワクしています。私自身、物語の筋がどうアレンジされたか知らないので一緒に楽しみたいところですが、実は「原作の方が面白いよ」って言ってもらいたい気持ちはあります(笑)。でも、原作を超えてもらって「悔しい」とも思いたい。だって、それはそれでうれしいことですから。皆さんがこのドラマを「面白い」と感じていただけるなら、反面そのどこかで、原作者の私が喜んで「悔しがってる」かもしれませんね(笑)

●新川帆立
1991年生まれ。アメリカ・テキサス州ダラス出身、宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業後、弁護士として勤務。宝島社主催の第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、21年に『元彼の遺言状』(宝島社)でデビュー。他の著書に『倒産続きの彼女』(宝島社)、最新作『剣持麗子のワンナイト推理』(宝島社)が4月8日に発売された。