• 『家電侍』 (C)BS松竹東急/PROTX

  • 『いぶり暮らし』 (C)大島千春/コアミックス/BS松竹東急/PROTX

井上EPは以前WOWOWに在籍し、様々なドラマをプロデュースしてきた。WOWOWのドラマはスポンサーがないため、表現の自由度が広告放送より高いと言われるが、CM収入を主体とするBS松竹東急で、そこでの制約は感じないのだろうか。

「最初から広告放送というのを大前提にしているので、割り切って制作できますね。今回は映画監督ともご一緒していますけど、『そういう前提です』とお話しするので、みなさん納得して参加いただいてます。作品の間にCMが入るというルールもありますが、視聴者を飽きさせないために『ここでCMを入れましょうか?』『この顔の寄りで終わりましょうか?』と監督と相談するのもアイデアの出し合いで面白いので、これもエンタテインメントの1つの形として楽しんでいます」

それに加え、出演者同様、新しく開局するテレビ局という真っ白なキャンバスで、思い描く局のカラーを作っていくというめったにできない経験も、制作者としては何より勝る魅力になっているようだ。

  • (左から)BS松竹東急・橋本元社長、『夜のあぐら』に出演する尾野真千子・井上真央・村上虹郎、中村敦史編成局長=3月24日開催の開局記者発表会より

■サブスク隆盛の中でのテレビドラマの意義

NetflixやAmazonプライム・ビデオなど、サブスクでいつでもどこでも楽しめる動画配信サービスが勢いを増す中、テレビ局でドラマを制作することの意義は、どう感じているのか。

「確かに配信各社さんはすごく伸びていますし、若い人がテレビを見ないという現実はありますが、今回開局ドラマを作っていく中で、テレビ局というものへの信頼感がまだまだあるなと思う局面が何回もありました。キャスティングするときもそうですし、原作者さんとお話しするときもそうですし、配信事業者さんにまだ距離を感じている方が多いというのが分かったんです。それに、BSの広告市場は、コロナ禍でも実は伸びているんです。地上波がコアターゲット(13~49歳など)を重視し制作している若者向けの番組についていけない人が、世の中のイメージよりも多くBSをご覧になっているのが分かったので、まだまだ可能性を感じています。WOWOWも頑張ってますし、NHK BSプレミアムもすごく質の高いドラマを作っているので、“BSドラマ”ということでのグレード感も持ってもらえるのではないかと期待しています」

連ドラ2枠は、7月スタートの第2弾、10月スタートの第3弾の放送に向けて準備を進めており、その上で『夜のあぐら』のように、「年に1回か2回は、長尺の良作ドラマを作っていくことで、経験値が蓄えられ、この局の将来につながっていくのではないかと思います」と先を見据える井上EP。

社名の通り、映画や舞台を展開する「松竹グループ」と、シネコンや劇場を運営する「東急グループ」を母体としている同局だけに、今後の展望を聞くと、「BSという枠にとどまるだけではなくて、映画化や舞台化、さらには東急さんが再開発されている渋谷の街での仕掛けなど、制作した作品が様々な形に広がっていくような局になったらいいなというのが、個人的な思いとしてはあります。BSを起点に、街とエンタメが一体化していくようなことができれば」と意欲を示した。

  • BS松竹東急・井上衛執行役員制作局担当エグゼクティブプロデューサー

●井上衛
1969年生まれ、兵庫県出身。新聞社、劇団を経て、WOWOWに入社し、『MOZU』『ダブルフェイス』や、東野圭吾・湊かなえ原作のドラマなどをプロデュース。21年9月、BS松竹東急に入社し、執行役員制作局担当エグゼクティブプロデューサー。