3月26日に開局したBS松竹東急。編成方針の1つの柱として、松竹が培ってきたノウハウなどを生かし、オリジナルドラマに注力することを掲げ、同時期に開局したBSよしもと、BS Japanextとの差別化を図っている。

新たに開局するテレビ局において、オリジナルドラマの制作は一筋縄にはいかなかったそうだが、制約のある中でも理想のキャスティングで納得の作品を放送できると胸を張るのは、執行役員制作局担当エグゼクティブプロデューサー(EP)の井上衛氏。その背景に加え、サブスクが隆盛を誇る中でテレビドラマを作る意義、そして、映画・演劇・街へとコンテンツを広げていく今後の展望など、話を聞いた――。

  • 『夜のあぐら ~姉と弟と私~』主演の井上真央(左)と手塚理美 (C)BS松竹東急/角川大映スタジオ

    『夜のあぐら ~姉と弟と私~』主演の井上真央(左)と手塚理美 (C)BS松竹東急/角川大映スタジオ

■小ぶりでも多くの人に響く作品を

BS松竹東急が開局記念特別企画のドラマスペシャルとして放送するのが、『夜のあぐら ~姉と弟と私~』(4月9日21:00~)。長嶋有氏の小説を実写化する同作は、父親の死に直面した主人公・秋子(井上真央)が、姉・春子(尾野真千子)に呼び出されて遺産相続をめぐる騒ぎに巻き込まれる中で、家族という“つながり”を再発見し、不器用ながら前を向いて生きていこうとするヒューマンストーリーだ。

井上EPがBS松竹東急に入社したのは昨年9月。その段階では、まだ候補作がいくつか挙がっているという状況で、開局に合わせてスペシャルドラマを放送するのは、「普通に考えると無理だなと思いました(笑)」(井上EP、以下同)と振り返る。

そんな中で、『夜のあぐら』が目に留まったのは、「原作は2002年に発表された小説なのですが、今に通じる家族のあり方やつながりの大切さ、一人ひとりの心情を丁寧に拾っていく作品なので、社会の分断が叫ばれる中、人は一人では生きていけないというメッセージをちゃんと伝えたいと思ったんです」という考えから。

「BS松竹東急という局の3年後、5年後を考えて、最初に背伸びして派手な花火を打ち上げるのではなく、小ぶりでも多くの人に響く大切な思いを込めた作品を制作することで、良いお客様、良いスポンサーの方々が長くお付き合いいただけるきっかけになれば」と、企画が走り出した。

  • 『夜のあぐら ~姉と弟と私~』 (C)BS松竹東急/角川大映スタジオ

■限られた期間でベストな布陣…背景に“開局記念”

限られたスケジュールや制約の中で、主演に井上真央を起用できたのは大きかったという。

「やはり開局記念なので本気度を見せたい、妥協したくないというのがありましたので、子役から女優をされて、朝ドラや大河ドラマの主役もされた井上真央さんが主演なら、それが伝わると思いました。そしてこの主人公は、いろんな思いを心に閉じ込めて生きてきた女性で、そこから一歩前に進んでくという人物なのですが、そのキャラクターを考えたときに、最初に浮かんだのが井上さんだったんです」

姉役の尾野真千子や弟役の村上虹郎といった理想的なキャスティングが実現したのも、「本当にお忙しい方々ですが、やはり企画意図が伝わったのが一番大きかったと思います」と手応え。

さらに、「“開局記念ドラマ”というところに興味を持っていただけた部分もあります。私にとってもそうですが、テレビ局の開局なんてなかなか人生で関わることはないですし、エンタメの歴史の1ページに名前を刻むということにもなりますから。そこで、まずはしっかりとした人間ドラマをやりますという姿勢に共感していただいたんだと思います」とそれぞれの快諾を得て、半年という限られた期間でベストな布陣を組むことができた。

  • 『夜のあぐら ~姉と弟と私~』 (C)BS松竹東急/角川大映スタジオ

■地上波と競合する時間帯の狙いは

このスペシャルドラマ以外にも、4月から30分の連ドラ枠を2つ始動した。第1弾は、滝藤賢一主演『家電侍』(毎週土曜23:00~)と、志田未来主演『いぶり暮らし』(毎週月曜22:30~)。こちらも3年後、5年後を意識して、“本気度”を示せるキャスティングがハマった。

両枠とも地上波で連ドラが放送されている時間帯だが、「いわゆるゴールデンタイムに1時間のドラマをずっと放送していける体力はまだないというのが正直なところですし、昼の時間帯では題材が限られるということがあります。そこで、将来的な配信戦略もある中で若い方に見ていただけるということを意識してこの時間になりました。地上波さんとの競争にはなるんですけど、すでにドラマをやっている時間帯であるからこそ、また、無料放送でもありますから、ザッピングで見てもらえるかもしれないという狙いもあります」と期待をかける。