――反町さんが、ご自身の失敗や経験を踏まえて、"若いモン"にアドバイスするとしたら?

うちには娘が二人いるんですが、『あんまり頑張りすぎちゃだめだよ』『別に120点取る必要はないよ。70点でもいいし、60点でもいいから、それをずっと取り続けろよ』という話はしてますね。要するに、『何事もバランスよくやりなさい』ってことなんですよ。人よりずば抜けて素晴らしいところは、別にそれほどなくてもいい。でも逆に言えば、バランスよく生きるのが実は一番難しかったりもするんです。というのもバランスよくやるためには継続しなきゃいけないけど、そもそも継続すること自体がすごく難しいことだから。

――とはいえ、若い頃は反町さんも「人より突出したい!」と思ったこともあったのでは?

もちろん! 19歳のころからこの仕事を続けてきてもう30年近くにもなりますけど、僕も若いころはどこか生き急いでいたと言ったらいいのかな?「がむしゃらにやって、人より上に行きたい!」と思っていた時期もありましたから。ただ、いまこの年齢になって改めて思うのは、継続することこそが実は何より大切で。あまり若い時に素晴らしい答えを出してしまうと、「あれ? この先自分は何をすればいいんだろう……」って、目標を見失ってしまうこともあると思うんですよ。だからむしろ目標なんてものは、漠然とありさえすればよくて。もちろんそこに到達するためには努力もするわけですけど、あまり早くに目標を達成してしまったら、逆に燃え尽きちゃいますからね。だから『なんとな~く目標を感じながら、なんとな~く頑張る』っていうのが、結局は一番長続きする秘けつなんじゃないかな」

――なるほど。一線で活躍し続けていらっしゃる反町さんの言葉は、説得力が違いますね。そんな反町さんが思い描く「理想の上司像」とは……?

僕もこれまで先輩方からいろいろなことを教わってきたわけですが、自分自身が渦中にいるときって、その"ありがたみ"みたいなものが意外とわからなかったりもするんですよ。経験や年齢を重ねたいまだからこそ、「あぁ、あの時あの人が自分に言ってくれたことって、こういうことだったんだなぁ」って、ふとした拍子に腑に落ちたりするものだから。結果として何が自分の心に響いて、何が自分のなかに残っているか、と振り返ってみると、何かわかりやすい決定的な出来事があったというより、少しずつ自分の身に着いているかどうかだと思うんですよね。せっかく素晴らしい手本が近くにあったとしても、自分自身が何も感じていなかったら、ただ横にいてそれを見てただけということになる。そういう意味では「理想の上司像」みたいなことって、むしろ受け手の捉え方次第で変わってくる気がします。

――たしかに。ときには反面教師の方が効果的な場合もありますからね。それを踏まえて、今回反町さんが「究極の理想の上司」である石沢課長を演じる上で、心掛けたこととは?

麦田(福原遥演じる新入社員)のような若い人たちと石沢課長が絡んだ時に、彼がどんな言葉をかけて、どう接するのかっていうところが、やっぱり一番の見どころになってくるとは思うんですよ。ただ真面目なことを言うというわけでもなくて。直球のメッセージからちょっとだけ外しつつ、あくまで彼女たちや彼らと同じ目線になって、自分なりに解釈したうえで話すことかな。でもそれって、普通はなかなかできないことでもあるんですけどね。演じる際には、決して上から目線ではなく、相手の目線を意識してセリフを話すことを何より大事にしましたね。

――実際に演じてこられた反町さんが感じた、石沢課長の魅力や、本作の面白さとは?

やっぱり時間が長いとどこかしらリアリティーも求められるし、時間軸を気にしなければいけない場面も出てきたりするんだけど、今回は1話あたり約8分という短さもあって、割と瞬間、瞬間で見せたほうが面白かったりもするんです。石沢課長は、心意気としてはとても人間臭いんですけれども、あまりリアリティーを追求しなくても済むというか。全編スーパーキャラクターで通せる部分はやりやすかったです。『GTO』のときもそれを実感したんですけど、マンガ原作って結構難しいんですよ。絵が動かない方がやっぱりみんな自分でいろいろ想像しますから。映像にすると「いや、漫画の方が面白いけどね」って大概言われてしまうものなんです。でも、作り手側が原作のどこの部分を一番大事にしたらよいのかさえしっかり把握していれば、マンガ原作であってきっと面白いものになる気がするんです。

――ちなみに、反町さんご自身が「今どきの若いモンは」と口にすることはありますか?

さすがに直接的に「今どきの若いモンは~」みたいな言葉を使うことはないけど、石沢課長と同じように、若い人たちに対して「すごいなぁ」って思う時もあれば、「もっとしっかりしろよ!」と思うことはありますよね。ドラマの中にも「SNSの画像の替え方を教えてくれ」みたいなやりとりがあって、「今どきの若いモンはこんなことができてすごいな」って驚く場面があったりするんですが、その一方で、僕自身としては「SNSばっかりに頼らないで、若いモンはもうちょっと人と話せよ!」と思うこともあるしね。

本来、「失敗も経験のうち」という言葉のとおり、自分で体験して肌で感じたことこそが一番大事なわけであって。僕たちの若い頃は、自分自身が何かやりたいことがあれば、多少遠回りしながらでもだんだんやっていくうちに、「あれ? なんとなくできるようになってきたね」って、自分の体感として会得できたところがあった気がするんです。でも今の時代はインターネット上に、一つどころか幾通りもの答えが書いてあるものだから、それを読んだり見たりするだけで、自分も出来たような気になってしまう恐れがある。だから「ネットで見ただけで分かった気になるなよ!」ってことは伝えたい。結局のところいつの時代も一番大切なのは、人と人とのつながりやコミュニケーションなわけで。「そこだけはせめて大事にしろよ!」って、僕も石沢課長と同じように、"今どきの若いモン"に言ってあげたいなとは思いますね。