• 『IPPONグランプリ』

木月:トータルデザインの話だと、賢太さんはやっぱり『IPPONグランプリ』がありますよね。

鈴木:『IPPONグランプリ』は、「松本人志さんで今まで見たことがない大喜利番組を、年に1~2回やっていくソフトにしたい。絶対に失敗したくないから、もうトップギアで行ってくれ」という話があったので、当時バラエティで暗くなると言ってタブー視されていた黒を背景に、黄色と合わせて工事現場のような最も激しい色の組み合わせにしようと。それを話していく中で、ちょうど当時『キル・ビル』が流行ってたんですよ。そこで、タランティーノ監督が剣術を西洋的に捉えたように、日本の「一本」を「IPPON」と捉えようと。そして、「IPPON」を取ったときにモニターが赤くなるのは、実は黄色と黒のトラックスーツで刀を振り下ろして血しぶきが飛ぶイメージなんです。それと大喜利の決め手となる得点が出るときに、そこに個性を持たせようと思ったんですけど、ちょうどその頃ハリセンボンさんが売れだして、(箕輪)はるかさんの歯がクローズアップされていたのを見て、そこに着想を得て1点入るごとにダダダダって周りから閉めていって、最後に「IPPON」取れるか取れないかの緊張した目のアップを映そうということで、あの入り方が決まっていきました。その提案全てに乗った竹内誠ディレクターがすごいんです。

横井:『IPPONグランプリ』は、うちの会議でも結構話題に出ますね。「『IPPONグランプリ』みたいなのできないかな」みたいな(笑)。表面だけ真似ても決して同じにはならないんですけどね~。ただ、トータルデザインというのは、統一させすぎると遊びもなくなるし、窮屈になってしまったりするので、余白の幅があるのが大事ですね。

■空間デザインでありながら“映像デザイン”を意識

木月:『IPPONグランプリ』から派生した『OMOJAN』もカッコよかったですよね。

――こちらは緑がベースでした。

  • 『OMOJAN』

鈴木:『OMOJAN』は、“ハイブリッド五稜郭”を作ろうと言って、5組が向き合って座る五角形の卓を、5面で囲った細長いモニターの隙間から撮るということをやってましたね。被写体とカメラが交錯しがちなのですが面の数を奇数にすることと、高低差をつけることで、カメラが見切れない(=映らない)ことを可能にしてました。

木月:やっぱり美術デザインの段階からカメラが狙う位置まで考えてるんですね。

鈴木:空間デザインではあるんだけど、やっぱりやっていることは映像デザインであって、そこから切り取ったものしか視聴者には届かないので、セットを建てて終わりじゃなくて、どういうふうに撮られるかまでイメージできてないといけないんですよ。映像化されるところまでが作品であるという意識が低いと、カッコいい空間を作っただけで終わることになるし、もっと言えばカッコいい空間であることで損させることはないのか、というところまで考えが行くかという話になってくる。空間を作っただけで満足してたら、『IPPONグランプリ』はあの得点の閉じ方までいかなかったと思いますね。つくづくセットデザインは、デザインが決定に至る時、デザインが具現化する収録時、映像作品として放送される時、と3度楽しいなと思います。

木月:最近はある特番の会議でも、芸人さんのネタの“新しい閉じ方”を見つけるために、美術さんに相談してみようって話になりました。

鈴木:そのアイデアがフジテレビだとセットデザイナーから出たりするんですけど、テレ朝だとCGから出てくるんですよね。

横井:最近だとテレ朝の場合は、CGとセットチームをクロスオーバーさせた体制にしようという流れがあって一緒に考えてるかも。そう言えば、入社して最初の1年半セットチームでひたすら研修してました~。

  • (左から)横井勝氏、木月洋介氏、鈴木賢太氏

次回予告…~美術クリエイター編~<5> 上手にダサい!? 各局の特色と多メディア時代に求められるデザイン

●横井勝
1973年生まれ、京都府出身。デジタルハリウッド卒業後、97年に全国朝日放送(現・テレビ朝日)入社。『ミュージックステーション』『アメトーーク!』などの番組のアートディレクションのほか、『ABEMA NEWS』クリエイティブ統括、テレビ朝日のCIデザインや「テレビ朝日・六本木ヒルズ 夏祭り」から「バーチャル六本木」の展開、『世界体操・世界新体操』の国際大会演出など、最新テクノロジー企画、リアル空間、商品開発も多数手がける。

●鈴木賢太
1974年生まれ、埼玉県出身。武蔵野美術大学卒業後、97年にフジテレビジョン入社。主な担当番組は『ENGEIグランドスラム』『ネタパレ』『人志松本のすべらない話』『IPPONグランプリ』『ジャンクSPORTS』『ワイドナショー』『人志松本の酒のツマミになる話』『VS嵐』『MUSIC FAIR』『FNS歌謡祭』『全力!脱力タイムズ』ほか。14年には『VS嵐』正月特番のセットで第41回伊藤熹朔賞協会賞を受賞。22年4月からグループ会社のフジアールに兼務出向。

●木月洋介
1979年生まれ、神奈川県出身。東京大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『笑っていいとも!』『ピカルの定理』『ヨルタモリ』『AKB48選抜総選挙』などを経て、現在は『新しいカギ』『痛快TV スカッとジャパン』『あしたの内村!!』『今夜はナゾトレ』『キスマイ超BUSAIKU!?』『ネタパレ』『久保みねヒャダこじらせナイト』『バチくるオードリー』などを担当する。